交通事故後遺障害におけるむち打ちとMRI

 先日、ある同業者とお話ししていた際「むち打ちで画像があればほぼ等級が認定される」と言う趣旨の発言を聞きました。なかなかに興味深い見解ですが、私は同意できません。実際、初回非該当になったケースもあります。当ホームページでも「むち打ちにおけるMRIの有用性」で、後遺障害等級認定におけるむち打ちとMRIの関連性を検討しています。
 そこで、本稿で一般的な脊椎の変化を考えることで、むち打ちとMRIの関連性を再考します。

  • 歳をとれば、誰でもヘルニアになる可能性がある。
  • ドクターに交通事故との因果関係を証明してもらう必要はない。
  • 事故によるヘルニアと認められなくても14級は認定され得る。

脊椎のお話し

 当事務所では整形外科医院のホームページを制作しており、ページ作成のために複数の整形外科医にインタビューを行っています。それらを録音して文字に起こしていく訳ですが、本稿における医学的な内容は、複数のドクターにインタビューする中で出来上がった自分の理解です。

 椎間板は、中心部にあるゼリー状の髄核とその周りの繊維輪という軟骨とでできています。歳をとっていくと、髄核の水分が減っていき、椎間板の高さが狭くなっていきます。また、繊維輪もへたってきますので裂け目ができてきて、そこから髄核が飛び出してきます。それを図示したもの、そして実際の画像が次のイメージです。部位は腰椎(L3)ですが、頚椎、すなわち首であっても基本的には同じです。
椎間板ヘルニアの仕組み
 このMRIは交通事故とは関係なく、40代の親族のものです。

ヘルニアと事故との因果関係

 このように、椎間板ヘルニアは、人間のメカニズムとして、ずっと生きていれば起こりえる状態です。しかし、ヘルニアがあるからと言って必ず腰痛や神経痛が発症するわけではないでしょう。

 そこで、交通事故によるむち打ちでは、MRIと事故との因果関係が重要になってきます。
つまり、そのヘルニアは、事故によってできたものなのか、元からあったものなのか、という判断です。

交通事故とヘルニアの関係性

 MRIを依頼すると、通常、放射線科医の簡易診断書のようなものが付されますが、そこにはよく「事故とヘルニアとの因果関係は不明」と付言されています。
 この一文は、一見すると被害者側に取っては、MRIが痛みを裏付ける医学的資料となりえないような印象を与えます。しかし、そうではありません。
 事故直前のMRIがないかぎり、当該ヘルニアが事故によって発生したものなのか、以前からあったものかを見分けるのは極めて困難です。
 たとえば10歳のお子さんに突出したヘルニアがあれば事故との因果関係がありそうにも思えます。しかし、上記のイメージ画像のように、30歳を超えれば、交通事故でなくてもヘルニアが映るMRIはたくさんあるのが実情です。
 ですので、交通事故のMRIは、まず撮影することが重要、そして所見が得られればそれでよく、医師に因果関係まで言及して頂く必要はありません。また、仮に因果関係が記載されていたとしても、調査事務所がそれをそのまま鵜呑みにすることはないでしょう。

交通事故と痛みの関係性

 一方、痛いという事実、これは非常に大切です。MRIを撮影して所見があろうがなかろうが「痛む」という事実を伝えることが大切です。痛ければどうすれば良いでしょう。痛くても放っておけば後遺障害が認定されることはありません。何故なら、後遺障害は「懸命に治療しても治らなかった不具合」であることが前提だからです(欠損障害等は除く)。
 ですので、痛かったということを伝わるようにするためには、通院を重ね、自覚症状を訴えて、それを後遺障害診断書に落とし込むことが大切になります。

事故によるヘルニアと認められなかった場合

 では、仮にヘルニアの所見が得られても事故との因果関係が認められなかった場合、等級は認定されないのでしょうか。決してそうではありません。むしろ、むち打ちでは、交通事故とヘルニアの因果関係が認められない場合が多数であると言えるでしょう。
 その場合であっても、事故で相当の衝撃を受け、痛みを感じてすぐに受診するなど、幾つかの要件とも言えるポイントを押さえることで14級9号の認定を受けられる可能性があります。

まとめ

 交通事故に遭った場合、身体の状態を正確に記録しておくという意味においてやはりMRIは重要です。
 しかし、MRIに映る画像は、事故後であるというだけではなく、今までの身体の状態もがいわば混在した画像になります。それに所見をつけるのはドクターの仕事ですが、所見が得られたからと言って等級が認定される訳ではありません。

 交通事故では、適正なプロセスを通って解決へ向かうことが重要で、その適正なプロセスは概ね一つであると言えます。しかし、事故には様々な態様があるため、柔軟に臨機応変に対応を考えていく必要があります。

 インターネット上に記載された情報がそのまま当てはまることは少ない、ということに十分留意なさってください。