京都市による「民泊通報・相談窓口」の設置について

 本日(平成28年7月8日)京都市から発表された資料によると、平成28年7月13日から、京都市が「民泊通報・相談窓口」を設置し、民泊に関する相談対応を開始するそうです。
 今日は、この「民泊通報・相談窓口」の設置について、掘り下げて検討しつつ、民泊の問題点について考えてみましょう。

設置の趣旨

 発表時の所管部署としては「産業観光局観光MICE推進室」が記載されています。旅館業法に基づく許可申請を担当するのは医務衛生課ですので、ラインとしては別になるようですね。オペレーターは外部委託のようですし、マニュアルにそった対応となるのでしょうか。

 さて、設置の趣旨として、プレスリリースには次のように記載されています。

所在地が不明な民泊施設については,市民の皆様からの通報をいち早く積極的に集め適正化を図り,市民の皆様の不安に的確に対応すること,また,適法に民泊を始める為の相談等に対応していくことを目的に,下記のとおり,「民泊」の通報・相談窓口を設置します

 この趣旨をさら分解すると次のように解せるでしょう。

  • 所在地が不明な民泊施設に関する通報を積極的に集める。
  • 所在地が不明な民泊施設の適正化を図る。
  • 市民の皆様の不安に的確に対応する。
  • 適法な民泊を始めるための相談に対応する。

 最初の二つについては、違法民泊に対する警告的意味合いを含んでいると言えるでしょう。現に「違法民泊が大多数」という記事が新聞に載った日は、10件近い電話がかかってきました。所在地が正確に分かれば、指導も行いやすくなりますね。
 ところで、違法民泊を継続していると、厳密に考えてどういう罰を受けるのか、という点も知っておく必要があります。根拠法は旅館業法です。

第十条  左の各号の一に該当する者は、これを六月以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
一  第三条第一項の規定に違反して同条同項の規定による許可を受けないで旅館業を経営した者
二  第八条の規定による命令に違反した者

 まさか懲役刑に処せられることはないでしょうし、あったとしても執行猶予がつくことでしょう。けれど、最も悪いケースを知っておくことはビジネスを継続する上で非常に大切です。無許可営業はリスクがある、ということですね。

 次に「不安に的確に対応する」と記載されていますが、これはもしかしたら保健センターに情報を提供して、何らかの措置が講じられる可能性が考えられます。
 現地へ行って指導するなどの対応が本格化してくるかもしれません。

 最後の「相談対応」は、民泊を開始するにあたって必要な事柄を教えてくださる、ということなのでしょう。市役所対応ですから、間違ったことは言われないでしょうし、安心して相談できるでしょう。

民泊は、何が問題なのか

 今回の窓口は、違法な民泊の通報窓口としての機能を有している点が特徴ですが、違法物件だけでなく、適法に許可を取得した民泊であっても地域からはあまり歓迎されていないのが実情のようです。
 もちろん、飲食店が中心で近くに住環境を害される方々がいらっしゃらない場合、お商売をやっているお店にとっては有り難いことなのかも知れません。
 けれど、ごく一般的な住宅街の中に、突如民泊ができると、多くの人が迷惑に感じられることもまた事実です。

 一体、何に問題があるのでしょうか。

 相談をお受けしている中では「キャスター音がうるさい」ということと「横に並んで歩いて危ない」というのが最も迷惑に感じられる点のようです。
 朝早く、また夜遅く、何人もの宿泊者が連れ立って「ガラガラー」とキャスター付きのスーツケースを転がして通られるのは、近隣の皆様にとってはかなり迷惑のようです。
 実際、お客様の中には「キャスター音があまりにうるさくて引っ越しした」という方がいらっしゃいます(ただし、原因はキャスター音のみではありません)。
 また、狭い道を並んでスマートフォンを見ながら歩いていらっしゃる姿をよく見かけますが、それも評判が良くないようですね。

 実務に携わっている人間から見れば、民泊では火器使用を禁じてもいいのではないかと思います。京都で民泊施設から出火したというニュースは聞いたことがありませんが、他国で違った機器を使って大丈夫なのかといつも心配に思います。
 消防署では火災時のガイダンスなど、様々な工夫をはじめていらっしゃいますが、一番確実なことは、火器の使用を禁じてしまうことではないかと思います。
 ただ、喫煙までを禁止すると周囲に多大な迷惑がかかってしまいますし、悩ましいところではあります。

この窓口は有効に活用されるべきです

 適法に許可を得て営業している施設がある以上、違法な民泊は駆逐すべきです。これは、現在の制度を運用していくためには非常に重要です。

 地域との融和策として、(現実的とは言えませんが)町内会にお金が流れるようにする仕組みを作るということも考えられます。民泊を登録制・更新制にして、毎年課金する。そして、その何割かをその施設がある町内会に交付するという流れです。
 町内会長への報告を許可の必要要件にするなどの工夫をすれば、実現できるかもしれません。
 このように、制度を改善し、有効に活用していくためには、そもそも、皆が適法に許可を取得している必要があります。

 そういう意味でも、現状の枠組みで進んでいくのであれば、違法な状態は解消していく必要がある。それに納得できないなら、新しい制度を作るために動いていかなければなりません。

まとめ

 そもそも民泊とは、旅館業法が想定していなかったビジネスモデルであって、一気に過熱したビジネスに対応するため、便宜上、旅館業法の「簡易宿所」を使って対応したに過ぎません。
 ですので、本来的には民泊に対応した新しい枠組みを作っていくことが必要と言えます。しかし、既存の旅館や簡易宿所(民宿)は、建築基準法等の基準をクリアするため、費用をかけて開業している訳ですし、そのあたりのバランスを考えることも重要でしょう。 また、京都は繁華街の地域が少なく、普通の住宅街で民泊が行われるという特性も考慮しなければなりません。

 確かに欧米のモデルを参考にしながら日数を設けて登録制にするというのも一つの方法かもしれません。けれど、住環境は国や地域によりまちまちな訳ですから、日本の現状に合致した制度設計を志向する意識が重要になってくると私は思います。
 副業で行う人も増えていますが、徴税への手当ても重要になってくるでしょう。

 日本の官僚諸氏は有能であるとされていますが、ここはその有能さの見せ所。誰もがハッピーになれる制度を作り出し、諸外国にも参考にされるようなフラグシップモデルを作り出して頂きたいものですね。