医療法人の現金出資と基金との関係性

 今日は、医療法人を設立する場合の設立時財産について検討します。

  • 医療法人を設立するためには、法人固有の資産が必要となる。
  • その資産を構成するためには、法人に財産を帰属させる仕組みが必要となる。
  • 財産を帰属させる標準的な仕組みが「基金」である。
  • つまり、法人に出資する薬品衛生材料、医業未収金等は、原則基金として拠出する。

医療法人の設立

 医院を経営していらっしゃる医師の先生方は、医療法人を設立することができます。医院経営もビジネスですので、法人を設立することのメリットやデメリットをよく検討した上で法人化なさるべきと言えるでしょう。そのメリット・デメリットについては、行政書士や税理士さんが集客用ホームページで詳しくご紹介していらっしゃいますので、それらの幾つかを参考になさると良いでしょう。

医療法人設立の要件

 医療法人を設立するためには、ヒト・モノ・カネの要件が必要になります。大枠は全国共通ですが、各要件についての詳細は、都道府県によって微妙に違います。細かな点は直接担当部署に確認すべきです。以下、大まかな要件を記載します。

人員基準

  • 医師(歯科医師)1名以上
  • 理事3名以上(医師1名以上を含む)
  • 監事一名以上

設備基準

 長期的にクリニックを運営できる場所。賃貸借契約書の契約期間は2年であることが一般的です。しかし、賃貸借契約の場合、期間は長期が望ましいとされていますので、覚書を取り交わします。賃貸借契約は個人で行っていますので、それを法人に引き継ぐことと合わせ、賃貸借契約を長期とする旨を内容にします。

資金要件

 京都では、薬品衛生材料+医業未収金+現金・預金の合計が、開業当初の医業費用の2ヶ月分を超えていなければなりません。

薬品衛生材料+医業未収金+現金・預金 > 開業当初の医業費用2ヶ月分

資金要件をクリアするためにはどうすればいいのか

 さて、ここからが本稿の主題です。事業を開始するためには、活動原資が必要となります。しかし、法人設立時には、生まれたての赤ちゃんと同じように、資産はゼロからのスタートとなります。ですので、法人設立後スムーズに活動できるように、法人の設立を停止条件として財産を帰属させる契約を事前に締結しておく必要があります。
 この契約をもって、開業当初の医業費用2ヶ月分を上回る資金を作ることになるというのが理屈です。

 そして、この契約は、一般的には「基金拠出契約」によって行います。
 これが今日の論点です。

現金出資・現物出資と基金

「基金」というのは、実生活や普段のビジネスではなじみの薄い言葉です。以前は医療法人設立において「出資持分」という概念がありました。しかし、その概念は廃止されましたので、「出資」に代わる言葉が必要だったのでしょうか。
 しかし、イメージとしては、基金は「出資」に近いと言えます。
医師個人所有であった財産を法人名義にするためには、契約が必要となります。
基金とは、医療法施行規則の定めに従い、医療法人と基金拠出者との契約により返還義務が生じる権利関係のことです。
 この基金拠出契約を締結することにより、新設医療法人は財産基盤を作って活動を開始することになります。
医療法人の現金出資と基金
 つまり、基本的には、医療法人への出資は、それが現金出資であっても、現物出資であっても、医薬品・衛生材料であっても、全て「基金」という箱に入れて、個人から法人へ移動させるとイメージすれば分かりやすいでしょう。

基金拠出しない場合

 ところで、厚生労働省の分類には「基金なし社団」という記載が見られます。ということは、基金拠出しなくても医療法人社団を設立できる場合が想定されていることになりますが、それは一体どういう場合でしょうか。
 ケースとしてはほとんどないと思いますが、寄付か贈与によって設立時資産を構築する方法が考えられるでしょう。それ以外には…思いつきません。

まとめ

 旧来、医療法人設立には「出資持分」という概念がありましたが、法改正でそれがなくなりました。法改正は平成19年であったため、インターネットには、改正前後どちらか分からない記事がたくさん見受けられます。
 しかし「出資持分」という概念こそなくなったものの、現実問題として資産を構築しなければならないのは以前と同じであり、言葉的には「出資」が「基金」に変わったと認識して頂ければいいでしょう。但し、基金を拠出したからと言って、株主のように法人に対し権利行使ができる訳ではない点に注意が必要です。

 原則論ではありますが、現金・預金、医業未収金、薬品衛生材料を法人に引き継ぐためには基金拠出契約を使う。これが今日の論点です。ご参考になさってください。