整骨院が交通事故に参入してくる理由

 今日は、接骨院や整骨院が交通事故被害者の方々に訴求し、集客している理由を考えます。
 当事務所の記事「交通事故で整骨院ではなく整形外科に通院すべき理由 」には、毎日50件近いアクセスがあります。
 交通事故でお怪我をなされた方々は、どちらに通院すべきか悩んでいらっしゃるのでしょう。一方、整骨院では交通事故を大々的に取り扱い集客をしている他、社団法人まで立ち上げて意見展開しているところもあるようです。

 もちろん、整骨院の皆様には、交通事故でお怪我をなされた方々を施術した方がよいという根拠があって主張なさっていらっしゃるのだと思いますし、私はそれを尊重します。

 とはいえ、適正な後遺障害の獲得を専門としている立場から言えば、交通事故でお怪我をなされた方々は、基本的に整形外科に通院しなければ圧倒的に不利になるという現実があります。それについては前述の記事で詳細を書いておりますので、ご一読ください。

 本稿は、今、整骨院が大々的に交通事故業界に参入している現状を裏側から考えることにより、お怪我をなされた方々により適正に治療先を選択して頂く情報をご提供することを目的としています。

  • 就業柔道整復師の数は、10年で2万6千人増えた。割合にして80%増加している。
  • 施術所(整骨院)の数は、10年で1万6千人増えた。割合にして63%増加している。
  • 交通事故の診療は、自由診療で行われることが多い。

整骨院、増えましたね~。

 最近、整骨院がどんどん増えているように感じますが、いかがですか?

 当事務所は、北野天満宮にほど近い商店街の中にありますが、実際、ここ10年で整骨院が激増し、300m程度の商店街の中だけで5軒ほどの整骨院があります。

 この傾向は、印象だけでなく数字にも裏付けられています。厚生労働省が2年に一度公表している「衛生行政報告例(就業医療関係者)結果の概況」によると、この10年で柔道整復師の人数とその施術所の数が激増していることが一目で分かります。

就業柔道整復師の数(各年末現在)

  • 平成14年 32,483人
  • 平成24年 58,573人

増加率約1.8倍

柔道整復の施術所数(各年末現在)

  • 平成14年 25,975カ所
  • 平成24年 42,431カ所

増加率約1.6倍

 いかがでしょう。すごい増え方ですよね。実際、行政書士も増加傾向にありまして、この10年間で会員数は増加しています。それでも、その増加率は1.2倍です。行政書士は、兼業士業者や公務員OBの「とりあえず登録」も多いことを考えると、この柔道整復師の絶対数の増加は驚くべきことであると言えるでしょう。

同業者が増えると市場はどうなるでしょう

 同業者が増えると、そのマーケットはどうなるでしょうか。当たり前のことですが、競争が激化します。競争が激化することにより様々な影響が発生しますが、新たな分野を作り出すというのも競争に生き残っていく一つの方策と言えるでしょう。ここに、整骨院が交通事故で訴求する理由があるのではないかと私は考えます。

交通事故と治療費

 交通事故でお怪我をされた場合、健康保険を適用して治療を行うか、保険を使わずいわゆる自由診療で治療するかどうかの判断をしなければならないケースがあります。
 これについては改めて検討しますが、現状では、交通事故の治療が自由診療で行われる風潮が根強く残存しており、その場合、治療機関は保険点数にとらわれることなく、診療報酬を決定することができます。とは言え、保険点数の10倍などという非常識な報酬が請求されることはなく、概ね1点12円から20円の単価で計算されていることが多いようです。

 整骨院であっても、自由診療で治療を行うことができますので、率直に言って、整骨院が交通事故でお怪我をなされた方の治療をすると、非常に儲かることになるのです。

被害者の立場になって考えてみよう

 では、観点を変えて、被害者の立場になって治療を考えてみましょう。整形外科か整骨院か、治療先をお考えの被害者の皆様は、痛みが残存しているはずです。痛みが残存すれば、それは後遺症として長引く可能性があります。しかし、後遺症があるからと言って、賠償金の額が増える訳ではありません。後遺症は、認定機関が認めることにより「後遺障害」となって、そこではじめて賠償の額に影響を及ぼす要素となるのです。いくら激痛が残っていたとしても、認定機関が「後遺障害」と認めなければ、それは交通事故の解決に影響を及ぼす(賠償金を増額させる)要素にならないのです。

 では、後遺症を「後遺障害」と認めてもらうにはどうすればいいのでしょうか。
 方法は一つです。しっかりとした整形外科の先生に見てもらい、そこで治療を受け、リハビリをし、受傷から症状固定まで一貫して痛みがあって、それが画像所見と一致しているという「後遺障害診断書」を書いてもらうことです。

 後遺障害診断書がしっかりしたものであっても、リハビリの回数が少なければ、後遺障害と認められない可能性があります。なぜなら「痛ければリハビリに行くだろう。リハビリの回数が少ないのは生活にそれほど支障がないからじゃないのか」と認定機関は考えるからです。

 一方、リハビリの回数が十分でも、それが整骨院である場合、経験則から申し上げると後遺障害と認められる可能性は低くなります。それは「痛ければ整形外科医の診察を受けながらリハビリをするだろう」と認定機関は考えるからではないでしょうか。

 別の見方もできます。あなたが整形外科医だったとしましょう。
 交通事故で怪我にあい、最初に治療に来たけれど、それからさっぱり来なくなった。それで半年してやってきて「今まで整骨院でリハビリしてました。後遺障害診断書書いて下さい」と言われ、正確な診断書がかけるでしょうか?
 おそらくそれは難しいでしょう。リハビリの経過も分からないし、気分だって良くないに違いありません。

 以上のような理由、経験、推測から、私は交通事故でお怪我をなされた皆様には、整骨院ではなく整形外科を受診し、そこで懸命にリハビリに励まれることをお勧めしています。
 しかし、実際には整骨院の施術で身体がらくになっというお話を聞くことがあるのも事実です。そのような場合、主治医や保険会社と調整し、両方に通院すれば良いだけの話しなのです。

情報を収集し、最適な選択をしましょう!

オピニオンを集めましょう

 以上は交通事故被害者の方々に対し、できるだけ適正な等級が認定されるよう尽力しているという私の立場からの主張であって、立場が変われば見方も、また主張も変わるでしょう。ですので、迷っていらっしゃる皆様は多くのオピニオンに触れ、主治医(もちろん医師であり、柔道整復師ではありません)の意見も聞いた上でご判断なされると良いでしょう。

まとめ

 インターネットには、情報があふれており、様々な人々が、様々な思惑を持って、様々な観点から主張を展開しています。私は、本稿で、後遺障害等級認定において交通事故被害者救済をしている人間として、被害者の方々により客観的な情報を集めて頂くという思惑を持ち、適正な等級認定を実現するには、という観点から主張を展開しました。

 見かけに惑わされず、冷静に、ご自身が何を基準に判断すべきかを見極め、適切な治療を受けられることを願ってやみません。本件について疑義等がおありであれば、お気軽にご連絡ください。

 最後に、本稿でも私は整骨院が交通事故に関わることについて否定的な立場から主張を展開していますが、私は柔道整復師の皆様に敬意を抱いています。本稿はあくまで交通事故被害者が等級認定を適正に行うには、という視点から自身の経験をふまえて主張を述べたものであって、柔道整復師の営業を妨げることを意図したものでないことを付言します。

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