文章や文字の加入・挿入・訂正・削除に関する検討

 先日、官公署で添付書類を確認して頂いた際、住所が手書きになっていた箇所があり、その箇所について「○文字加入と記載してください」と指摘されました。

 私は「?」と思いました。「なんで加入?」

 結局、そこは加入記載はせずに済みましたが、改めて加入や挿入について考えてみました。本稿ではその思考過程をご紹介します。
※本稿は私見に基づいた記述です。

  • 加入が問題となるのは、書類が成立してからの話しであろう。
  • 加入と挿入は、厳密には使い分ける価値がある概念と考える。
  • しかし、提出先担当者に従っておくのが何より得策なのです。

概念のチェック

 さて、当ブログではお決まりになっている広辞苑チェックからいきましょう。出展は全て【広辞苑第六版DVD-ROM版】です。

加入

組織・団体などに加わり入ること。

挿入

さし入れること。さしこむこと。

訂正

誤りを正し改めること。

削除

文書・名簿などの、ある部分をけずりのぞくこと。

…なるほど。分かったような分からないような。実務的な視点も盛り込みながら、以下検討していきます。

加入・挿入

 加入や挿入は、一般的には、既に記載された文章の間にニョキッと下向けの【 { 】を書いて追加する箇所を明示し、そこに記載する場合に使われます。
加入と挿入について
 上の写真のように矢印で文字を「グイッ」と入れ込むイメージですね。ただし、これを無制限に認めると書類が成立しなくなりますので、修正した箇所に直接押印するか、捨て印の横に「○字加入」或いは「○字挿入」と記載します。
 この場合に「加入」とするか「挿入」とするかについて、明確なルールはありません。しかし、修正の雰囲気を見ても、これは明らかに「さし入れる」行為であって、挿入と記載するのが正しい表現と言えるでしょう(私見)。

 では、加入はどういう時に使うのでしょうか。これが本稿のメイントピックです。

加入という修正方法を考える

 加入というのは、挿入と区別して考えるなら、矢印を使うことなく、文章の後ろや余白に文字を書き足す場合に使うべき修正方法といえるでしょう。たとえば、利益相反行為の承認決議があった議事録で「但し、○○は特別利害関係を有するので本決議には参加しなかった」という一文を忘れて「書き足してね」と言われる場合です。或いは、選任議事録で「被選任者は即時就任を承諾した」旨を追記する場合もあるでしょう。

 しかし、これは「敢えて区別した」検討です。矢印を使わず文末や余白に書き足す場合でも、文章全体からみれば、それは「挿入されている」と考えられます。広辞苑の意味合いから考えても、文字を書き足す場合は「挿入」を使うのが国語的には正解といえるのではないでしょうか。
 ただし、「挿」という字が多少難しいというのもあるのか、実務では「加入」の方が使われている印象を受けます。この場合、担当者の指示通り修正するのが正解、というか一番無難な対処法でしょう。

手書きであれば「加入」になるのか?

 ところで、紙の仕事をしていると、書類の修正等は避けてとおることができません。
 今回の手続では、情報が確認できないまま書類を空欄で作って持参し、そこで書き込みながら押印したという事情がありました。実務ではよくあることでしょう。
 このように、最初から書き込むことを予定して書類を作成した場合、手書きしたことをもって「○字加入(挿入)」という付記をすべきなのでしょうか。

 この流れで、時系列を厳密に考えると、先に書き込み終えてから押印者の確認を得て押印する場合、それはたまたまプリント出力と手書きが混在はしたけれど、書類としてはなんら問題ないということになります。

 ところが、押印後に押印者の確認を経ずに書き込む場合は、押印者が押印した書類との間に齟齬が生まれることになる訳ですから、加入(挿入)の文言を記載すべきということになります。

 つまり、最も厳密に考えるなら、矢印を使った挿入ではなく、文末や余白に書き足す場合に「加入(挿入)」という付記をするかどうかは、押印時を基準時とすべだ、と私は今回考えました。
 なお、矢印を射しこんで文字を挿入する場合、たとえ押印前であっても、押印者の許諾を得ていた場合でも、修正である旨を明示するために「○字挿入」を記載すべきことは言うまでもありません。

官公署の対応

 さて、今回、手書きの住所を「○字加入と付記して」と言われはしましたが、結局加入の付記はする必要がないということになりました。
 しかし、これにはオチがつきます。実は、住所の記載漏れが一箇所あり、後日連絡が入って「そこは加入で付記してね」と指摘されたのです。
 これは、実務家にとっては、とっても厳しい(笑)運用方法ではありますが、正論だと思います。

加入と挿入のまとめ

 以上をまとめると、私的には次のようになります。

  • 挿入とは、文章の間に文字を追加的に修正する場合に使うのが妥当である。
  • 加入を使うならば、それは文章の前後に文字を追加する場合に使うのが適当であろう。
  • ただし、書類としてみれば、【下向きの { 】を使っていなくとも、文と文の間に文字を「挿入」したと言えるので、国語的にはどちらの場合も「挿入」を使うべきであろう。

削除について

 さて、文書を修正するときは、書き加える場合だけではありません。文字を消さなければならない場合もあります。
 文字を削除する方法は、二重線で消してその消した箇所に押印するか、捨て印がある場合は「○字削除」と記載するのが一般的です。まれに「抹消」を使うこともありますが、削除の方がより相応しいと言えるでしょう。
文章を削除する方法

私が教わった「訂正」の使い方

 ところで、私は「○字訂正」という修正の方法を使っていたことがありました。これが日本全国どこでも通用するのかどうかは知りませんが、その仕組みをご紹介しておきます。

削除する字数とそれに代えて追加する字数が基準

 たとえば、「昭和25年」を「平成25年」に直したい場合、昭和の2文字を削除して、平成の2文字を挿入することになりますが、この時に「2字訂正」を使っていました。
 これに対し、字数が釣り合わない場合は「○字削除○字挿入」という表現で修正するというのが教わった方法です。
 つまり「行為章」を「後遺障害」に修正するような場合です。この例では「3字削除4字挿入」となります。

この検討は常に当てはまるのか

 さて、ここまで文章の修正方法、「挿入」や「削除」といった実務の取扱について検討してきました。
 では、これは全国のどこでも、どんな相手にも通用するのかといえば、それは「時と場合による」という答えになってしまいます。
 例えば、同じ行政手続であっても、建設業許可における修正と車庫証明の修正方法では全く取扱いが異なります。京都市内で車庫証明の書類を修正するのに「捨て印」という概念が通用した経験はありません。
 また、銀行での手続でも捨印を押す欄があったとしても、修正箇所に「じかばん(直接押印すること)」が要求されることが多いというのが実感です。
 ですので、実務においては書類を修正するにあたっては、まず「捨印」が使えるのかどうかが大切になります。

まとめ

 文字の修正はできればないのが一番ですが、知っておいて損はありません。
 しかし、官公署であっても、運用はまちまちです。担当者の面前で加入しても、それが矢印を使う挿入でなければ「○字加入」を求められない場面も経験したことがあります。一方で、捨印を使っての修正自体を認めない手続もあるようです。
 まとめると、一番大切なことはしっかり丁寧に書類を作ること、次に大切なことは、(訂正があっても気軽にハンコを頂けるよう)依頼者と良好な人間関係を築くこと、そして、最後に担当者と良好な人間関係を維持すること…となるでしょうか。
 私見が多い投稿ですが、ご参考になさってください。