遺失物・落とし物についての法律的検討

 先週の探偵ナイトスクープで、迷子になった小鳥(セキセイインコ)の飼い主を探す、と言う依頼がありました。
 依頼の内容は理にかなったもので、探偵さんも懸命に調査されましたが、番組の中で飼い主を見つけることはできませんでした。

 しかし、冷静に考えて「警察に届けんでええのかいな?」と疑問に思われた方もいらっしゃったのではないでしょうか?

 今回は、遺失物、落とし物について知っておきたい法律知識について検討します。

それでは、「どうぞ」

今日のポイント
・拾ったり、偶然発見した物については、その物の占有者に返せない場合は警察へ届けなければならない(ゴミはゴミ箱へ入れましょう)。
・遺失物等を警察へ届け、自分の物になるのは、公告後三ヶ月経過時であるが、所有権取得時から二ヶ月以内に引き取らない場合は所有権を喪失する。
・拾得者は、報労金を受け取ることができる。

1.遺失物に関わる法律

民法
(遺失物の拾得)
第二百四十条  遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

遺失物法
(趣旨)
第一条  この法律は、遺失物、埋蔵物その他の占有を離れた物の拾得及び返還に係る手続その他その取扱いに関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条  この法律において「物件」とは、遺失物及び埋蔵物並びに準遺失物(誤って占有した他人の物、他人の置き去った物及び逸走した家畜をいう。次条において同じ。)をいう。
2  この法律において「拾得」とは、物件の占有を始めること(埋蔵物及び他人の置き去った物にあっては、これを発見すること)をいう。
<第二条第三項以下省略>
(準遺失物に関する民法の規定の準用)
第三条  準遺失物については、民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百四十条の規定を準用する。この場合において、同条中「これを拾得した」とあるのは、「同法第二条第二項に規定する拾得をした」と読み替えるものとする。
第四条  拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
<第四条第二項以下省略>

2.「遺失物」等の定義

 落とし物は警察へ届けなければならない、と言うのはある種の常識ですが、ここでは、その「落とし物」とは何か、について少し検討します。
 遺失物の取扱につき定めた遺失物法では、遺失物について特段定義付けはされていません。分かりやすく言うなら、落とし物、忘れ物、と言うことであり、その定義で十分通用するのではないかと思います。
 さらに、遺失物法で取り扱うのは、遺失物だけではありません。埋蔵物やその他の占有を離れた物についても遺失物法の適用があります。「その他の占有を離れた物」というのは、逃げていった動物が代表例となります。これは、遺失物法第一条に記載されていますが、第二条では、一歩踏み込んで遺失物法が取り扱う「物件」につき定義しています。

第二条  この法律において「物件」とは、遺失物及び埋蔵物並びに準遺失物(誤って占有した他人の物、他人の置き去った物及び逸走した家畜をいう。次条において同じ。)をいう。

 つまり、自分の物ではない物については、とりあえず遺失物法の適用を受ける、と考えていいでしょう。ただし、「茎から切断されたタンポポの花が道に落ちていたら遺失物と言えるのか」などという論点については、幾つかの見解があるかと思いますが、本稿の論点は別の処にありますので、今回は常識的な「遺失物」を想定して話しを進めます。

3.「家畜」の定義

 遺失物法第二条に「家畜」という言葉が使われています。そこで、その家畜の定義が問題となります。
 一般的に、「家畜」とは「牛」や「ブタ」をイメージし、家で飼う犬や猫、小鳥については「ペット」と言う言葉が相応しいように思えます。
 しかし、「ペット」と言う言葉は法律で使われることはなく、「動物の愛護及び管理に関する法律」にも出てきません。また、「愛玩動物」という言葉も出てきません。
 この遺失物法は平成18年に改正されていますが、立法担当者も、まさか牛やブタが逃げて町中を走り回る光景を想像して草案した訳ではないでしょうし、遺失物として想定されるのは、むしろペットであったはずです。
 ですので、私見ではありますが、この「家畜」と言う言葉は、「野生の動物を除く」という意味合いで使われているのであって、一般的にイメージされるような、或いは辞書で定義されるような「家畜」の意味ではなく、「人に世話されていた動物」と言う意味で考えるのが適切ではないかと思います。

4.遺失物の取扱

 では、それらの遺失物等を拾得した場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
 遺失物第四条がそれを定めています。

第四条  拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
2  施設において物件(埋蔵物を除く。第三節において同じ。)の拾得をした拾得者(当該施設の施設占有者を除く。)は、前項の規定にかかわらず、速やかに、当該物件を当該施設の施設占有者に交付しなければならない。
<第四条第三項省略>

 まず、拾った場合、速やかに遺失者に返還するか、警察署長へ提出する必要があります。 ただし、それが施設内であった場合、施設占有者に交付する必要があります。つまり、遊園地や映画館で拾ったら、警察ではなく、それぞれの管理者へ届け出る必要がある、ということです。
 これは案外重要です。何故なら、落とした人は、まず、落とした場所へ「落とし物届いてませんか」と確認するからです。
 そこで見つからず、それから警察へ届け出る人が一般的ではないでしょうか。ですので、「施設内で見つけたら管理者へ」というポイントは知っておいて頂きたいと思います。

 警察へ届けたら、警察が公告し、その後三ヶ月経っても遺失者が不明な場合は拾得者が所有権を取得します。
 遺失者が見つかった場合、遺失者が引き取ることになりますが、拾得者に5%から20%の報労金を支払わなければならない、と定められています。遺失物の拾得が施設内であった場合、この報労金は拾得者と施設側で折半することになります。
 この報労金の請求権は、拾得者と施設側が行使できる立派な権利であり、行使しないでいると、遺失物の返還から一ヶ月で消滅します。

5.探偵ナイトスクープへのあてはめ

 さて、以上の検討結果を探偵ナイトスクープの依頼にあてはめると、依頼者はやはり警察へ提出する必要があったのではないかと思われますし、自分の小鳥として飼いたい的な発言もありましたが、それは許されるものではないと考えられます。

6.まとめ

 落としたり、忘れたり、拾ったり。遺失物法は意外と身近な法律です。近年の改正によって公告期間が三ヶ月と短縮されていますが、遺失物の検索はインターネットを使って簡単にできるようにもなっています。一度ご覧になっておかれるのも良いかもしれません。

 なお、今回は探偵ナイトスクープの依頼内容を素材にしていますが、本稿は探偵ナイトスクープの依頼が違法であると言うことを主張するものではありません。また、遺失物と準遺失物を便宜上「遺失物等」と表現していることを付言致します。