建物の用途や種類に関する検討

 簡易宿所の許可申請では、建物との関わり合いが不可欠です。
 なかには「他の行政書士に登記記録に居宅と書かれているから許可申請できないと言われた」というご相談を受けることもあります。
 意外に知られていないこの「建物の用途・種類」という論点について検討してみましょう。

  • 建築基準法には「建物の用途」という概念がある。
  • 不動産登記法には「建物の種類」という概念がある。
  • 課税においても、建物の用途が概念されている。
  • これらは全て自動でリンクする訳ではない。

民泊やゲストハウスの許可申請について詳しくはコチラから!

建物の「用途・種類」

 建物には、用途や種類があります。建物は、当然建てる際に用途を想定して建築するはずです。建物の建築に関する法律は「建築基準法」ですが、そこでは建物に用途という概念をあてはめて、その用途毎に必要な規定を定めています。
 建築基準法施行時に建っていた建物を取り扱うことも少なくありませんが、建築基準法が施行される前に建築について定めていた「市街地建築物法」についても用途に関する規定がありました。
 建物は建てる時点で使う用途を考え、その用途に適合した建築を行う必要がある、ということになります。
 建築基準法施行規則には建物の主要用途が定められています。その一部を列挙しましょう。

  • 一戸建ての住宅
  • 長屋
  • 共同住宅
  • 公衆便所、休憩所又は路線バスの停留所の上屋
  • ホテル又は旅館

簡易宿所の許可申請で問題となる「用途変更」

 民泊、すなわち簡易宿所の許可申請でよく問題となるのが「用途変更」です。この用途変更は、建築基準法上の主要用途を、たとえば「一戸建ての住宅」から「旅館」に変更する、ということです。
 よく「100㎡を超えない建物は用途変更の手続が必要ない」という話しを耳にしますが、実際の建物の使い方が変われば、建物の用途は自動的に変わります。
 届出をしていようがいなかろうが、簡易宿所の許可を取ってようが取ってなかろうが、ゲストハウスを始めたらその建物は自動的に建築基準法上は旅館用途の建物となる、ということです。
 ですので、面積にかかわらず用途変更は常に頭に入れておかなければなりません。これは類似用途間で用途変更手続が不要とされる場合も同じでしょう。手続が不要なだけであって、用途変更になることは変わりがないからです。
建物の用途

建物を建ててからの登記

 さて、建築基準法に則って確認申請を行い、無事建物ができあがりました。次にするのが建物の登記です。まず「建物表題登記」を申請して表題部を作成し、その後「所有権保存」登記をするのが一般的な流れですね。
 このとき、建物表題登記申請時には、建物の種類が登記事項となります。
 建物の種類は、法令で完全に種類が定められているということはなく、建物の実情に相応しい種類で申請を行います。
 主たる建物が居宅で附属建物が共同住宅、といった登記記録もあるかもしれません。

登記と簡易宿所の許可申請

 基本的に、簡易宿所の営業許可申請を得て旅館業をはじめると、当然建物の種類も変更になりますので、不動産登記法第51条の定めにより、変更から一ヶ月以内に変更登記を行う必要があります。

課税対象としての建物

 建物の登記をすると(しなくても)、固定資産税はしっかり課税されますね。京都市では、未登記建物には9000番代の家屋番号が独自に付されているようです。
 この建物の固定資産税を算出する際にも「用途別区分」が設定されており、京都市では木造13種類、非木造9種類合計23種類の用途が固定資産税の算出に用いられています。

固定資産税と簡易宿所の許可申請

 簡易宿所の許可申請をした際に、役所の固定資産税課に届け出る義務があるのかどうかまでは調べることができませんでした。各役所には「届出してね」というお願い文のようなものが掲載されていますが、これらの文面から考えると強制力はなさそうです(私見)。
 一般的には建物表題変更登記申請をチェックした役所が現地確認に行くという流れになるのでしょうか。
 ちなみにですが、旅館用途になると、住宅用地である場合の土地の軽減税率が適用されなくなりますね。

まとめ

 建物の用途や種類は、本来実情に応じて定められたものが、どの手続にも引き継がれて用いられるのが理想的です。しかし、現実はそうではなく、店舗のまま住宅になっていたり、逆に住宅を店舗に転用しているケースもあります。
 このあたり、縦割り行政の弊害を感じてしまいますね。

 簡易宿所の許可申請では、とかく建築基準法上の用途変更だけがクローズアップされがちですが、建物の用途とは意外に奥深い論点があるということをお伝えすべく本稿を出稿します。
 登記や固定資産税などは行政書士業務の範囲外です。建物の用途変更は建築士、建物表題登記は土地家屋調査士、税金は税理士さんがそれぞれ専門家となりますが、縦割りの情報を集約するため、敢えて行政書士のブログで取り上げました。隣接専門家の皆さまにおかれましては、掲載趣旨をご理解頂きますようお願い致します。
 免責事項のチェックもお忘れなきよう。