住宅宿泊事業法の届出における「騒音」について

 住宅宿泊事業法の届出において「騒音」とは何を言うのでしょうか。
 京都市における窓口対応をきっかけにして考えたこの論点について検討します。

  • 「騒音」について問題にするなら、まず騒音を定義すべきである。
  • 騒音の確認を行うのであれば、実施要領を定めるべきであろう。
  • 届出後に、届出自体をひっくり返されるような不安定な手続は是正すべきである。
  • 窓口で10分以上待たせることは止めて頂きたい。

「個別に判断するので不受理の場合もある」という答えの衝撃

 鉄筋コンクリート造の建物で2階全部にオーナー居住、3階の一部を家主非同居+管理会社不要で、一部を家主不在型で届出しようと相談に行きました。
 3~5階を使うため、論点は他にもあったのですが、京都市の窓口担当者から衝撃の答えが。

「個別判断になり、現地で騒音が聞こえるかを確認し、聞こえなければ不受理の場合もある」

 驚きよりも怒りで身体が震えるような思いでした。堂々と「書類受け取った後にひっくり返す場合もあるよ」と宣言するわけです。
 そして、何の権限を根拠にしているのか知りませんが、人の家にあがりこみ、(今回は)上の階で防犯ブザーを鳴らして音が聞こえるかどうかを確認すると。
 ここから、私は声こそ抑えましたがまくしたてるように話しました。

私が話した内容の要旨

  • 京都市の言う騒音とは何なのか。
  • 確認のために使う防犯ブザーは、音量等の根拠があるのか。
  • ブザーはフロアのどの位置で鳴らすか等決まっているのか。
  • 音を確認するために事前に京都市の担当者が来てくれるのか。
  • 自身で確認しようとする場合、何を根拠に確認すればいいのか。

 実務家であれば当然確認しなければならない事柄だと私自身は思います。こういったことを私がまくし立てるように話した後、担当者は再度協議に行きました。

 こういう事例で担当者が奥に引っ込んだ場合、まぁ大抵10分は待たされます。今日は18分でした。最長は30分弱待たせて「お待たせしました」も言わず着席した人がいましたので、18分なら普通というレベルなのでしょうか。ちなみに今日も「お待たせしています」などという相手を気遣う言葉はありませんでしたが、京都市の住宅宿泊事業窓口にそういう発言は求めない方が良いでしょう。

再度の返答

 次に返ってきた答えは、最初のものからは随分軟化した表現となっていました。その要旨は次のとおりです。

  • 直上階の部屋であれば、騒音は聞こえるだろうという仮定に基づいている。
  • 検査の時は窓を開ける。
  • 実情として通っている届出が多いと思われる。

 最初は何だかきつめに言っておいて、こちらが明確性などを追求していくと軟化した答えが返ってくるのは、この窓口では定番のことです。そのきつめの根拠ない発言を鵜呑みしにそのように軌道修正される届出者さんが気の毒でなりません。

再度の返答に対する私の対応

 この窓口では、窓口レベルではラチがあかないことが多く、どれだけ粘っても明確な答えはもらえません。ですので、時間的にも京都市側に預ける他選択肢がなくなります。私は、疑問点をぶつけてそれに対し後日での返答を求めました。

  • 京都市が定義する「騒音」の概念を知りたい。
  • 騒音の聞こえる聞こえないを論点にするなら、それは届出の進行に重大な影響を及ぼすので詳細を知りたい。
  • 実施要領があるなら開示を求めたい。
  • 位置・高さ・器具の性能など、再現のため細かな情報を知りたい。
  • 行政指導であるわけだから、それらを文書にして頂きたい。

京都市の上記対応が問題だと思う点について

 この京都市の対応は、控えめに書いても届出人を舐めているとしか思えないほどお粗末である、と私は思います。以下にその根拠を記載します。

根拠が不明である

 騒音の確認を行うのに防犯ブザーを使うという話しでしたが、何故防犯ブザーを使うのか、それが何デシベルの音量であって、京都市では何デシベル以上を騒音と定義しているのかについて問い合わせても明確な答えは返ってきませんでした。
 そこが明確でないのにそもそも確認を行うことができるのでしょうか。根拠が不明であるのに検査を行うということは、あってはいけないことだと私は考えます。

届出事務の安定性が著しく損なわれる

 届出書類を一旦受け取りはしたものの、現地で音が聞こえるかどうか確認して判断する、というのは届出事務の安定性を損なうものです。経済的にも無駄でしかありません。音が聞こえないとなった場合、管理業者と契約しなければならず、収支計画の再検討を迫られます。これは国が「住宅宿泊【事業】」と名付けた、紛れもないビジネスモデルなのです。
 京都市側からは「余っている住宅を貸し出す訳だから収支計画など関係ないのではないか」という反論がありそうですね。彼らは常にこういう論理を押しつけてきます。けれど、これは国が認めた事業です。事業である以上収支計画は必要です。事業としてやるから安全措置を講じなければならないのであって、無駄に非常用照明をつけなければならないことになっているんです。
 ですので「やってみないと分からない」などという博打のような行為を行政自らが認めるなどというのはあってはいけない、と私は思います。

検査が恣意的に行われる可能性がある

 検査の実施要領が明確でない場合、恣意的な検査が行われる可能性があります。京都市のホームページにも住宅宿泊事業法窓口業務の一部を京都府行政書士会に委託することが明記されています。このような状態で検査実施要領の詳細がブラックボックスの場合、私は素直にこう考えます「窓口業務に関わっている行政書士にだけ恣意的な検査が行われる可能性はないのか」と。

 こういう目で見られないためにも、届出の可否を決するような重要な事項について検査する、というのであればその詳細は誰もが分かるように公開すべきではないでしょうか。でなければ、事前に確認もできないのです。

提言

 文句を言うだけなら誰にでもできること。手続の適正化に少しでも寄与できるよう、私は次の提言を行います。

「騒音とは何か」を明確にしましょう

 京都市さんは何かと「独自ルール」を持ち出されますが、「騒音」の定義はどうなのでしょう。環境省準拠なのでしょうか、国際基準があるのかどうか知りませんが、国際基準準拠なのでしょうか、それとも京都市独自基準を持ち出されるのでしょうか。
 それが明確にならないと、事前の検証自体もできません。検査するというなら、その基準を明確にして、かつ、その基準が妥当であることを届出人に納得させるべきです。

測定方法の詳細を定めましょう

 繰り返しますが、家主非同居型+管理会社不要というのは需要の多い届出類型です。オーナー居住場所と届出住宅の位置関係が近いことから、近隣対応もしっかりやってもらえると予想できますし、いざという時の駆け付けも安心です。そういった意味で、現実的かつ理想的な届出類型であると私は考えています。
 このような類型に対し「騒音確かめてからでないとOKとは言わないよ」というのであれば、その測定方法をしっかり決めましょう。
 お隣の大津市では届出後の検査さえもありません。過度な負担を課すなら、その根拠などをしっかり明示するのも市の責務です。
 具体的には、どの時間帯に・どのような機器を使って・どの場所で・どのような方法で測定するのかを届出人に明確に示しましょう。お風呂では検査しないのか、と尋ねたところ「お風呂で騒音って考えづらいんじゃないですか」という答えが返ってきました。
 ???
 シティホテルで水周りが廊下側にある構造の場合、廊下を通っていると艶やかな音色が聞こえてきた経験あるのですが、京都市担当者諸氏の生真面目な耳には届かないのでしょうかね。大きな音はどこでだって出してしまうことがあります。屁理屈ではありません。やる以上、方式を定めるのは当然なのです。

届出後にひっくり返る可能性を予め含むようなやり方は是正すべきです

 実地検査に行ってみて、図面からは予見し得ない瑕疵があって「これはまずいでしょう」という指導を入れるやり方は分かります。けれど、届出時に「はい、じゃあ届出が通るかどうかは現地に行ってからね、検査のやり方特に決まってないんだけど」で市民が納得できますか?
 何度も繰り返しているように、事前に諸事明確にすることでこの馬鹿馬鹿しいプロセスは回避することができます。これは事業なのです。博打ではありません。消防設備に30万円かかるのです。京都市はこういった届出人の事情をもっと考えるべきです。

もう待たさないでください

 本当に、なんでこの窓口は人を長時間待たせるのでしょうか。何を議論しているのか、不思議でなりません。また、手続に議論など必要ないのです。根拠を明確にして根拠のないことに関しては答えない。それでいいのです。
 窓口で相談に来た人を何十分も待たせるのはいい加減やめましょう。そして、待たせたなら、人として「お待たせしました」くらいは言うようにしましょう。

同じ日に、旅館業であったこと

 同じ日に、不動産屋さんから問い合わせがあって、旅館業の窓口に確認しました。その内容は「定員5人でシングル6台を置いて検査をうけた場合、問題になる可能性があるか」というレアかつ漠然としたものでした。
 しかし、担当者さんは間髪おかず「定員を超過した寝台の設置は自然とは思えず実際にあまりない。京都市としては定員超過を疑うので、その理由を確認した上で審査を行う。6台置くことのみを持って不許可とはならないが、理由の如何によっては指導の対象になり得ると理解して欲しい」という趣旨の回答をされました。
 ダメだと書いてないから不許可にはならないが、行政側としては「うさんくささ」を感じるから理由を尋ねるし、理由が合理的でない場合は寝台の数を減らすよう指導するよ、ということです。条例・市の指導権限を隅々まで理解した素晴らしい回答だと思います。

まとめ

 行政担当者は法律・政令・条例・規則などに準拠して事務を行います。京都市さんは何かというと「市の責務」という包括的な文言を水戸黄門の印籠のように使って自分を正当化しようとされますが、それでは曖昧で届出人側は納得できないことが少なからずあります。

 行政は強力な権限を持つからこそ、その行使は慎重かつ適正に行われなければなりません。音が聞こえるかどうか調べる、というのであれば調べ方について詳細に決めていなければなりません。
 このような窓口対応が毎日なされいるのかと思うとその稚拙さにゾッとします。嫌がられても言い続けなければ改善しない。少しでも手続が改善していくよう、悪役を続ける覚悟です。