何丁目の「何」は漢字、算用数字のどちらで書くべきか

「○○市□□何丁目」という住所の表記につき、「何丁目」の「何」は、漢数字で書くべきでしょうか、それとも算用数字で書くべきでしょうか。
 今日は、意外に知られていないこの住所表記についてのお話しです。
 答えは簡単で、「何丁目」というのは、固有名詞と解されており、横書きの場合でも原則的には漢字で表記します。
 しかし、これには奥深い論点がいくつかあるため、あえて回り道をしながら検討していきます。なお、出稿するにあたり文献等で確認もしていますが、全てが正確な記述である保証はありません。一個人の研究成果と思いお読みください。また、本文中「町制」・「字制」という書き方は便宜上の呼称です。

  • 「□□何丁目」には、2種類のスタイルが存在している。
  • 「□□何丁目」が一つの町名である場合、横書きでも漢数字が原則である。
  • 「何丁目」が「□□」の小字である場合も、同様の結論であると考える。
  • 実務においては、横書きでアラビア数字を用いる場合があり、それは間違いではない。

「町」と「字」という概念

 本稿における「□□何丁目」を理解していくには、前提として、市町村下における行政区分としての「町」と「字」という概念に触れておく必要があります。これは、地方自治法第260条に概念されています。

第二百六十条  市町村長は、政令で特別の定めをする場合を除くほか、市町村の区域内の町若しくは字の区域を新たに画し若しくはこれを廃止し、又は町若しくは字の区域若しくはその名称を変更しようとするときは、当該市町村の議会の議決を経て定めなければならない。

 市町村は、行政区分の方法として、町制をとるか、字制を取るかを選択することが通常ですが、町の下に小字を概念しているところもあるようです(横浜市の例)。

 たとえば、京都市のお隣の大津市は、町制に基づいた行政区分を行っていますが、北隣の志賀町を合併する際、志賀町は字制の行政区分でした。そこで、志賀町の字制を町制にして合併しています。その結果、たとえば「滋賀郡志賀町大字小野」は「大津市小野」へ、「滋賀郡志賀町大字小野水明1丁目」は「大津市水明1丁目」へ、それぞれ変更されています。

 また、京都市の南にある久世郡久御山町では、字制を残したまま、住所から「大字小字」を省略した表記にするよう変更しています。

 さらに、京都府宇治市には、「小倉町」「広野町」と言った地名があるものの、区分としては字制を取っていることがホームページにも記載されています。

 ところが、横浜市では、町制ととりながらも「字丁目」という呼び名で町の下に小字を概念しているようです。たとえば、神奈川区六角橋一丁目は、「六角橋一丁目」という町名ですが、「松見町1丁目」は、「松見町」が町名であって、「1丁目」は小字という扱いになります。そこで、横浜市では一カ所の例外を除き、一体として町名をなすような場合は漢数字を用い、字として丁目を用いるときは算用数字を使うことで、外形上その差異が分かるよう区別しているとのことです。

 一方、土地の所在自体には字制を残しながら、住居表示の実施によって「□□丁目」と住所表示を行っているケースや、町制でありながら、同様に住居表示を行っているケースもあります。

  • 町制を取っているケース。
  • 「町」があるけれど、字制であるケース。
  • 字制を取っていて、「大字」「小字」を省略するケース。
  • 町制でありながら小字があるケース。
  • 住居表示実施によって「何丁目」となっているケース。

字の歴史

 字という行政区分は歴史的な産物であり、町とほぼ同義であると言えるでしょう。

「何丁目」の表記方法

 では、「何丁目」というのは、横書きの場合、漢数字、算用数字の何れを用いるべきでしょうか。
 これは私見ですが、「何丁目」が「固有名詞」であるか、小字の「何丁目」を表しているかにかかわらず、漢字表記が原則であると思います。

 まず、「□□何丁目」が「□□」と「何丁目」に別れるのではなくて、「□□何丁目」自体が町名であった場合、固有名詞として、表記はその告示に従うことになります。

 地方自治法第260条にあるとおり、町名は告示されますので、その告示通りに表記することになります。

 また、仮に「何丁目」が小字であったとしても、小字も行政区分を特定する固有名詞と言うことができますので、こちらもやはり地方自治法の告示通りに表記することになると言えるでしょう。

告示の方法

 ところで、告示は書面によって行われ、それは従来縦書きでした。従って、住所の告示における数字は漢数字が用いられるのが通常ですので、「何丁目」の「何」も全て漢数字となっていました。
 そこで、固有名詞として告示された「□□何丁目」は、横書きであっても漢字を使うことになったわけです。
 「四日市」を「4日市」と書かないことと同じです。

告示の横書き化

 ところが、告示も横書きが主流になりつつあります。その場合、固有名詞の漢数字であっても算用数字に改めるという規程が置かれることが多く、先ほどの「□□何丁目」の「何」も、算用数字に置き換えられます。
 その場合、告示表記が算用数字だからということで、横書きの住所に算用数字が用いられる可能性があります。
 しかし、告示で算用数字が用いられているのは、この規程がおかれているためであって、これは算用数字として固有名詞化されたのではなく、固有名詞的に使われてきた「六丁目」や「四丁目」が、横書きによる数字の置き換え規程によって、算用数字で表記されただけであると考えるのが自然である、と私は思います。

私の結論

 つまり、「何丁目」というのは、それが町名の一部となっている場合であっても、或いは、独立して小字となっている時であっても、固有名詞であって数詞はないので、固有名詞の漢数字はアラビア数字に変換しないという一般原則に従って漢数字を用いるのが原則だと考えます。この例外が前述の横浜市の用例です。横浜市では、固有名詞としての町名に含まれる「丁目」と、町の下にある小字としての「丁目」を区別するため、小字の丁目を「字丁目」と呼んで、算用数字で表記して区別しています。
 しかし、この横浜市の表記例は例外的であって、一般的には横書きでも漢数字を用いるのが原則です。

実務での取扱

 以上のとおり、私は「何丁目」という表記においては、横書きにおいても漢数字を用いることが原則だと考えますが、実際には、アラビア数字で表記された住民票の写しを頻繁に見かけます。
 これは、「住居表示に関する法律の施行に伴う住民登録の取扱い」(昭37 ・5・29 民事甲1448 号通達)の横書き記載例において、アラビア数字が用いられていたことによるものと考えられます。
「…便宜上アラビア数字による表記をしても差し支えない(参考:昭38 ・7・9民事甲1974 号回答)。」
 という先例もあるため、実務的にはアラビア数字表記のものも出ているわけです。
 つまり、「何丁目」を横書きで表記する際には、漢数字を用いるのが原則だけど、アラビア数字を使っても間違いではない→「どっちでもよい」という極めて妥当な結論が導き出されるわけです。

まとめ

 本稿の主眼は、「何丁目」に漢数字を用いることの紹介だったのですが、結局は関係ないけれどもスルーできなかった「町」と「字」の概念や、告示の横書き化など、多くの論点を含むものになってしまいました。
 最初の結論で書いたように、丁目を表記するのに漢数字を使うことは、「それが固有名詞だから」と説明されることがあります。
 確かに、それは説明手法の一つではありますが、町名や字名は告示が効力発生要件となっていること、告示が横書きになりつつあることを考えると、この表記方法は意外に深い論点を含んでいると言えます。
 「丁目」と言うのは、その場所を特定しているという意味において固有名詞と考えられますが、汎用性が高く数詞に概念されてもおかしくはありません。数詞であれば横書きの場合はアラビア数字を用いることが標準ですが、大切なことは、所在が特定できることですので、先例も「どっちでもいい」と結論づけているのでしょう。
 いや~、日本語って、難しいし奥が深いですね。