5月 22nd, 2019|ブログ|

 役所の某部署から電話がありました。
「添付書類の会社定款に『原本と相違ありません。』の一文が抜けているので追記しに来てもらえますか?」

ヒヤッとしました。
(私)「印鑑抜けてましたっけ?」
(役所)「印鑑は押してあります。『現行定款に相違ありません。』と書かれていて、『原本と相違ない』旨の記載が抜けてるんですよー」
(私)「あーーーー、なるほど。追記しに伺います」

 私は書類は通ればそれでいいと考えていますし、補正には素直に応じました。
しかし、この指導は正しいとは言えない、と私は思っています。

 本日は、この「会社定款」の「相違ない」旨の書き方について検討します。

結論から先に申し上げますと、会社定款の原本証明が必要とされる場合「以上、当会社の現行定款に相違ありません」という文言を使うのが第一選択であると考えます。「以上、原本と相違ありません」を使うのは明かな間違いではないが正しいとも言えず、その旨の指導がない限りは最初の文言を使うのが妥当と思います。

  • 「原本と相違ない」というからには、原本があって、それを確認している必要があろう。
  • 原本であることを証明するのか、書類そのものを証明するのかと言うので取り扱いは異なる。
  • 原本であることを相違ない旨の奥書で証明を要求する場合、原本確認が必要と考える。
  • しかし、役所の言うとおり書いておけばそれで差し支えはない。

原本、持ってますか?

 書き出しのくだりで私が一番違和感を持ったのは「定款の原本は手元にないやん」という認識がベースになっています。
会社の定款は、紙で作成した定款を認証してもらう方法と、電子定款の認証という二つの方法があります。

 これが大切になりますので、流れを確認しておきましょう。

紙定款の認証方法

 紙の定款は、通常三部作って公証人役場に持参するのが一般的で、京都公証人役場では、定款の左上に朱色で「正本」「謄本」と押されたものが返ってきます。
つまり、原本は公証人役場に保管されることになり、原本と同じものであること確認し正本として認証したものと、原本を謄写したものであることを認証した謄本が返ってくる、ということです。

 繰り返しになりますが、提出した三部の紙定款は「原本」「正本」「謄本」として役割を持つことになります。謄本を作るかどうかは任意ですが、原本と正本は必要になりますので、紙の定款は最低でも二部準備していく必要があります。

 ここで私が言いたいのは「原本」は公証人役場に保管されている、ということです。
換言すると「原本」が手元にないのに「原本と相違ありません」っておかしくないですか?ということです。

電子定款の認証

 次に、電子定款の認証について考えます。
電子定款については、そもそも「原本」自体が存在しません。認証すべき定款自体を電子情報として送っており「原本」というブツがどこにもないのです。実務的にはPDFファイルを送りますが、それを出力したものは、電子情報の印刷物であって「原本」とはまったく別のモノです。

 それを裏付けるように、電子定款の認証を受けた際に付される認証文言は「これは、保存された電磁的記録に記録された情報と同一であることを証する。」となっています。
これは、受け取る謄本が原本でも正本でもなく、もはや謄本であることを意味しています。
この出力したものをそのままコピーしたとしても「原本と相違ない」とは言えないでしょう。

原本証明は何を証明することになるのか?

 視点を変えてみます。
「定款には原本証明をしてください」と言われた時、それは何を意味しているのでしょう。
これには二つの可能性が考えられるように思います。

1.定款が原本を謄写したものであることを証明する。

この場合、文字通り、原本というブツが存在していて、それをコピーなり、内容を書き写すなりして、同様の情報であることを証明することになります。
まさに「原本と相違ない」ことを証明していることになります。

2.その書面が定款そのものであることを証明する。

 定款は会社の根本規則ですが、それには、定型の書式がある訳ではありません。どの出版社から発売されている六法全書の憲法も、憲法そのものに違いはありません。
つまり、会社の定款も、証明されるべきはその内容であると考えるなら、定款内容を記載した書面に「これは当会社の現行定款です」と書いて社長の記名押印を付してしまえば、それが定款そのものになる、と言えます。

 この二つの証明の方法ですが、どちらがより証明力が強いでしょう。同じと言えなくもないですが、私は文書そのものを証明している「これは当会社の現行定款に相違ない」の方が、より証明力が強いと感じます。

実務の取り扱い

 実際の実務においては、私の経験では「当会社の現行定款に相違ない」の文言を付すほうが圧倒的多数です。というより今回のように補正を求められた事例は初めてでした。
具体的には、以下のように書くのが一般的です。

令和○年○月○日
以上、当会社の現行定款に相違ありません。
株式会社高木商店
代表取締役 高木一郎 印

また、契印も忘れずにしておきましょう。

原本証明が必要なケース

  • 官公庁への申請や届出において、添付書類に定款が求められる場合
  • 金融機関に提出する場合

 上記のようなケースの場合、原本証明が求められますので、事前に確認しておかれると良いでしょう。

まとめ

 定款の原本証明は、実務ではよく使われる概念ですが、実は「原本」そのものが会社に存在していないという矛盾を抱えています。
しかし、この認識は意外に持たれていなくて、役所の添付書類リストには「定款の写し」と書かれていることが多数です。

 正本や謄本をコピーして、或いは電子情報を出力して「原本と相違ありません」というのは少し無理がある考え方ですよね。だからこそ、会社定款の場合は「現行定款に相違ない」という文言を使ってきたのでしょう。これには合理的理由があります。
しかし、要は書類が通ればいいことですので、私は細かな議論はしません。書けと言われれば喜んで書きます。

 原本証明一つ取ってみても、行政手続は意外に面白い論点を含んでいることが分かります。こういうことをあーだこーだ話しながら書類を前に進めていくのも、行政書士業務の面白さの一つですね。

 なお、本稿は私見に基づく検討です。実務に活用なさる場合、必ず監督庁に事前確認なさって頂けますようお願い致します。

最後までお読み頂いてありがとうございます。
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