【必読】データから考える旅館業-それでも民泊やりますか?

 京都は民泊がアツい!
 不動産会社は売れば儲かる、仲介すれば儲かる。
 管理会社は宿泊日数によって儲かる(自分の財布は傷まない)。
 ですので、不動産会社さんも管理会社さんも「民泊は儲かる」とおっしゃいます。
 もちろん弊所もその許可代行でお仕事させて頂いている訳ですが、購入前のご相談があったら、私は一番最初に言います。「既に供給過剰です。それほど利益は出ず、廃業や転売されているケースが多く出始めています」と。

 今日は、民泊新法で加熱するビジネス、セミナーなどに一石を投じたく、この事実を、データからご案内致します。

使用するデータ

□京都市産業観光局の宿泊数データ
http://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/cmsfiles/contents/0000224/224921/besshi1.pdf
□平成27年の京都府統計白書
http://www.pref.kyoto.jp/tokei/yearly/tokeisyo/tsname/tsg1421.html

このデータを基礎に予想値を計算しつつ、需給バランスを検討します。

基礎となる数字

 まず、宿泊施設数は、京都市が公開している平成30年2月末時点での数値を用います。

  • ホテル:210軒
  • 旅館:367軒
  • 簡易宿所:2,210軒

 次に、客室数は、平成27年京都府統計白書に記載の京都市データを用います。なお、簡易宿所については室数データがないため用いません。

  • ホテル:163軒で20,830室
  • 旅館:369軒で5,467室

現在へのあてはめ

 この数字をベースに、現在の室数を仮定します。単純に27年の平均値を30年2月末時点の数字に掛け合わせて計算します。

  • ホテル:210軒で26,836室
  • 旅館:367軒で5,437室
  • 簡易宿所:2,210軒

 さて、この部屋数に宿泊できる定員数を算出します。本稿はあくまで簡易な検討であって、仮定の数字を用いざるを得ません。
 ホテルについてはシングル・ダブルの部屋が混在していますので、定員は1~2の間になります。ここでは中間をとって、1室あたりの定員を1.5名と仮定して計算します。また、旅館については施設基準から定員3名程度が予想されますので、若干少なめにして2.5名と仮定して計算します。
 簡易宿所については、弊所の許可取得実績から定員は7名と仮定します。簡易宿所は定員3名の場合もありますし、100名を超える施設もあります。この「7名」という仮定はかなり少なめであると思います。

弊所で仮定した平成30年2月末現在の宿泊定員

  • ホテル:210軒で26,836室×1.5人=40,254人
  • 旅館:367軒で5,437室×2.5人=13,529人
  • 簡易宿所:2,210軒×7人=15,470人
  • 合計:69,253名

 この検討からは、京都市の1日の宿泊定員がおよそ7万名規模になっていると導き出されます。ただし、この施設には、民宿もラブホテルも含まれていることにも注意は必要でしょう。

宿泊者数の検討

 次に宿泊者数を検討します。
 京都市産業観光局の統計を使います。まずは同じ人が連泊しても2名とカウントされる「延べ人数」ベースで考えます。

  • 平成27年:年間20,361,000人
  • 平成28年:年間21,500,000人

 この伸び率で平成29年の年間宿泊者数を計算するとおよそ21,639,000人となります。これを365日で割ると1日の人数が出ます。計算すると、1日の宿泊者数は59,284人となります。
 京都市内は宿泊施設数が足りない足りないと言われていますが、控えめに計算してみても、

予想宿泊可能定員数69,253名>1日あたりの宿泊者数59,284名

 と、既に116%の宿泊定員を受け入れ可能であることが分かります。16%しか余剰ないやん?と思われるかもしれませんが、数値にしたら1万人分の客室が余ることになるんですよ!ものすごい数字ではないでしょうか。

繁忙期はどうでしょう

 上記検討は年間ベースの平均値です。では、繁忙期はどうでしょうか。上記産業観光局の統計によると、月別でみれば4月が最も多く月間延べ1,996,000万人が宿泊されています。これを日数で割りますと1日平均64,387名となり、繁忙期でも収容定員が上回っていることを示しています。但し、繁忙期の週末はどこも予約できないと言われますので、今回計算した予想値は現実と近いのではないかと思えます。

増加率

 宿泊者数は平成27年から平成28年にかけて5.5%増加しています。これに対して宿泊施設数はホテル・簡易宿所含め815件の増加です。仮に1室あたりの定員をホテル1.5人、旅館2.5人、簡易宿所の定員を7人と考えたとき、増加率は次のようになります。

  • ホテル:平成27年定員:31,245人 / 平成28年定員:35,078人
  • 旅館:平成27年定員:13,667人 / 平成28年定員:13,630人
  • 簡易宿所:平成27年定員:34,104人 / 平成28年定員:73,157人

 増加率は54%となります。いかに供給が増えているかが一目瞭然で分かりますね。今後は母数が増えていきますので増加率自体は鈍化していきますが、件数自体は平成30年もほとんど変わらないかむしろ増加していくのではないかと感じます。

民泊新法の予想届出件数

 報道によると、京都市では民泊新法による届出件数を2,000件超と見積もっていらっしゃるようです。
 民泊新法の届出は、マンションであっても1戸ずつ届け出ることになりますので、定員は3名弱が一般的となるでしょう。それでも、7,500人分の宿泊定員が増強されることになります。もちろん、簡易宿所営業に関する申請も減っていません。むしろ増えている傾向にあります。
 この状況で、新しく買って簡易宿所で十分な収益を上げることができるのでしょうか?

まとめ

 私たち事業開始をお手伝いする側からみれば、昨今の民泊ブームはまさにゴールドラッシュに似た状況に思えます。ゴールドラッシュで一番儲けたのは道具屋だと言われますが、民泊でも一番儲けているのは消防設備業者さんであることは疑いの余地がありません(笑)。じゃあ行政書士もでしょ?と思われるかもしれませんが、ウチは98,000円という尋常でない低価格でお手伝いしておりますので利益など出ていません。儲けているのはセミナーやって1件30万程度取っている書士さんくらいでしょう。
 民泊には不動産が必要ですが、京都はブランド力があり、民泊が上手くいかなくても転売すればいい、という考え方もあります。それは一理あると思います。ただ、今は民泊狙いで京都の不動産が高騰しており、尋常ではないと思える価格で売買がなされています。
 お金がありあまって仕方ない海外投資家の皆様なら格別、そうでなくて「民泊でひとやま」とお考えであれば、上記検討をよくご参考にして頂き、現状既に供給過剰であるという認識のもとにスタートなされることをお勧め致します。