産業廃棄物収集運搬業許可申請における車両登録と「傭車」について

ご新規のお客様から相談がありました。
「他社が運送業許可を受けて緑ナンバー登録している車両を自社の産廃運搬車両として登録したい。これは『傭車契約』であって、他府県では登録できているので京都府でもできるのではないか」

ということでした。
結果的に、京都府に確認した処、それは認められないという話しでしたが、面白い論点ですので共有します。

  • 傭車契約の内容について詳しく理解する必要がある。
  • 産廃の収集運搬車両登録の本質を考える必要がある。
  • 運送業における緑ナンバー登録の本質を考える必要がある。

傭車契約とは何か

弊所では運送業の申請実績がありません。ですので「傭車契約」と言うのも初めて耳にする言葉でした。
インターネットで調べた自分の理解では「配送業務の外注」と言う概念で考えて差し支えないようです。
一部記載では「車を借り受けることも『傭車』と呼ぶ」とありました。
しかし、これには違和感があります。車を借りて自社で走らせるためには緑ナンバー増車の申請と車両の使用者を変更する登録が必要になるはずです。
これですと運送車両のリースとほぼ同じであり、簡単に言うと「緑ナンバーのレンタカー」と言った感じではないでしょうか。
「傭車」というのは、運送業務そのものの外注、外部委託という考え方の方がしっくりきます。
以下、この考え方を基礎にして話しを進めます。

傭車契約の内容について

今回の相談では、私が勉強不足なこともあり、話しが上手く噛み合いませんでした。
というのも、私は実務屋ですので、申請手続と書類から伺った話を組み立てていきます。
私の耳には「傭車契約」というのは「車両の貸借」にしか聞こえない。何故かというと、京都府の産廃申請では、車両の使用者が申請者になっていない場合、貸借の証明書を提出する必要があるからです。

けれど、相談者様は「車両の貸借じゃない。会社間の契約なのです」とおっしゃる。

その時、私は「傭車」という概念自体を知らなかったので、まず「傭車」について調べて考えました。

傭車は委託するということであれば、どちらがどちらに何を委託するのか、ということです。

運ぶために車両を使わせてもらう訳だから、依頼するのが相談者様の会社(以下「申請会社」と言います)で受託するのが運送業許可を持つ会社(以下「受託会社」と言います)になるはずです。逆のパターンでは何もかもが当てはまらない。

そう考えると、委託内容は「申請会社が産廃を運ぶために受託会社の車両を使わせること」と言うことになります。

うん、これ車両の賃貸ですよね、やっぱり。

で、もう一度電話して「会社間の契約とはどんな契約内容なのでしょうか」と尋ねました。すると「傭車契約です」と返ってくる。
ですので「傭車契約という言葉を使わず表現するとどうなるでしょう」と返答に窮されました。
「つまり、産廃を運ぶのに受託会社の車両を使うという契約ではないですか?」と尋ねると「そうなりますね」とおっしゃる。

やっぱり車両の貸借です。

この「傭車契約」が車両の貸借ではなく「運搬の外注=再委託」を意味していた場合、再委託は原則禁止ですが要件を満たせばできないことはない。けれど、受託会社も当然に産廃収集運搬業許可が必要になります。この受託会社は許可を持っていないのでそれはできません。

話しを整理して、論点は以下となりました。

「運送業の許可を得ている会社があります。その会社が自社で登録している緑ナンバーの車両を貸借によって別会社の産廃収集運搬業に供する車両として登録できるでしょうか」
こうして整理すると、これは産廃の許可手続だけではなく、運送業の手続面からも適法性を考えなければならないことになります。

運送業は国土交通省管轄、産廃は環境省管轄です。
申請は基本的に「他法令遵守」の必要がありますが、それはあくまで自主的に行うものであって、他法令に抵触しているかどうかまで審査されることは少数です。

このため、今回のケースで申請会社、受託会社ともに瑕疵なく手続を完了させるにはどちらの許可にも影響し合わないことを確かめる必要があります。

運送業に関する論点

運送業については、自社で登録した緑ナンバーをそのまま他人(他社)に貸借してよいのかという点を確認する必要があります。

貸借が可能であった場合、車を運転するのは申請会社のドライバーになります。今回の相談では、受託会社は産廃許可を持っていないので外部委託はできません。

これって、ものすごく違和感あります。緑ナンバーを勝手に貸し出して他の人が運転する。

けれど、許可の名義貸しとはちょっと違う気もします。許可の名義貸しも実質は車両を貸すことになるんですけれど、貸して運ぶものが産廃だ。…考えても調べてもイマイチ分からない。

ですので輸送課に確認して聞きました。
「登録した車両を、車検証の所有者使用者を変えずに他の会社に貸借して使わせることはできますか?」
「できません」というとても分かりやすい答えをもらえました。

産業廃棄物収集運搬業に関する論点

次に、京都府の担当部署に連絡して確認を依頼しました。
産廃の申請で、車両の貸借については都道府県独自で様式を用意していることが多数です。京都府の様式を見ると、車両を産廃の収集運搬には使い回せない旨記載されていますが、運送業では廃棄物は運びません。ですので以下のように質問しました。
「産業廃棄物収集運搬業の許可申請で登録した車両を他会社の運送業の車両として使えるか」

答えは「使えません」と言うことでした。

論点の整理

結果として、今回の相談者様が持ち込まれた「傭車契約による産廃車両登録」と言うことはできませんでした。

とはいえ、相談者様のお話しでは関東方面では既に認めている役所もあるとのこと。
これ、果たして本当にそうなんでしょうか?

ケースに分けて考える必要があると思います

運送業と産廃収集運搬双方の許可を持つ会社が緑ナンバーを登録する場合

産廃の車両登録は緑ナンバーでも勿論できます。というか、本来は緑の方が相応しいのではないかという議論もあります。
産廃収集運搬業の審査では、ナンバーの色は問題になりません。ナンバーの色だけでなく、何となればプリウス1台で建設系廃棄物8種石綿ありで申請しても通ります(担当者は苦笑しますが)。

緑ナンバーを借り受けるという構図の場合

この場合、運送業の許可を持ってない会社が緑ナンバーを借り受けて走ること自体が違法になります。ですので、緑ナンバーを持っていない会社が緑ナンバーの車を産廃運搬車両として登録することがそもそもできないのではないかと弊所は考えます(私見)。

言葉ではなく中身で考える

今回は「傭車契約で申請できる」という言葉がまずあって、その中身を理解する所からはじめました。
極端は話しをしますと、緑ナンバーでも貸借の証明書を出してしまえば、申請自体は流れて許可証をもらえるのではないかと私は予想します。

それはつまり、運送業と産廃の許可申請は別物で、運送業として使うかどうかという所まで産廃の申請手続で審査しないからです。

けれど、それは申請のあるべき姿ではないでしょう。

まとめ

産業廃棄物の収集運搬で使う車両は、申請者に使用権限が必要で、使用者欄に名前がない場合は貸借の証明書を使って申請することになります。

緑ナンバーの使用権限を持つためには、緑ナンバーを運転できる許可を持っていることが必要になりますので、運送業の許可が必要になるのは当然と考えられます。

また、産業廃棄物の収集運搬を再委託するためには委託先も許可を持っていることが必要になります。

以上のことから、今回の相談では相談者様のご要望にお応えすることはできませんでした。

関東では運送業の許可を持っていない産廃の収集運搬業者が緑ナンバーで運搬しているのでしょうか…謎です。

いずれにせよ、許可は事業を適法に行うために取得するもので「通ればいい」という考えでは事業開始後に手痛い目に遭うことも考えられます。

複数の許可に影響が及ぶ場合、面倒でも各所に確認し裏取りするのが安心です。
ご参考になさってください。