高次脳機能障害を見逃さないで!

 1年半前に受託した交通事故被害者様のサポート業務が、自賠責併合6級、労災5級の認定を受けて自分の手元を離れました。後は示談に流れます。

 このケースは、見逃されかけた高次脳機能障害を捕まえて等級に結びつけることができたという点で被害者様にお喜び頂くことができたのですが、実は高次脳機能障害が見逃される事例は少なくないと思われます。警鐘の意味を込めて事例をご紹介致します。

受傷時の状況

 国道をバイクで直進中、右折しようとしてきた乗用車と衝突。身体は吹き飛ばされ10日以上意識が戻りませんでした。

高次脳機能障害の受傷について

 高次脳機能障害の被害に遭われる方は、歩行中や自転車・バイク乗車中の事例が多数です。お車に乗っている場合、シートベルトを着用していれば、よほどの大事故でない限り脳に対して高エネルギー外傷を負うことはないでしょう。実際、当事務所への相談も、お車に乗っていらっしゃったケースは一件もありません。
 逆に、歩行中、自転車やバイク乗車中に事故に遭われた場合、たとえ受傷時に意識障害がなかったとしても、器質的損傷が認められれば高次脳機能障害が認められるケースがあります。ですので、頭部を激しく打ち付けた場合はMRIを取っておくことが後々の証拠になり得ます。

受傷後の治療経過について

 意識回復後、被害者様は奇跡的とも言えるほど順調に回復なされ、一見、高次脳を疑うような兆候はなかったのでしょう。治療は整形外科分野のみ行われ、脳の検査はなされず半年が経過しました。整形としても十数カ所の骨折があったため、半年経過後もリハビリを継続していました。

病院による治療の弊害

 このケースでは、患者が目を覚ました後、高次脳を疑うような兆候がなかったため、治療は整形外科分野のみ行われることになりました。
 そもそも医師は、自分の専門分野において診察と治療を行うのが仕事であって、交通事故の後遺障害立証は仕事ではなく、むしろ本音で言うと手間がかかり避けたい分野ではないでしょうか。
 ですので、整形外科の医師は、高次脳には無関心なことがむしろ普通であると言えます。
 しかし、高次脳というのは、言葉が話せなくなったり記憶を失ったりするような明確な症状ばかりではありません。喜怒哀楽が激しくなっていたり、前は使っていなかった「あれ」や「これ」という言葉を多用するようになったり。無気力になったりするのも高次脳機能障害のサインです。

 高次脳を疑う事故ですから、それは大抵大きな事故です。ですので「事故のショックだろう」と安易に結論づけてしまいがちですが、それは精神の分野ではなく、脳の障害が原因である可能性もある訳です。

 ですので、被害者様のご家族は、患者様のサインを見逃すことなく「おかしい」と思うことがあれば、主治医に相談する一方、交通事故後遺障害の専門家へ相談なさると安心です。

相談時の対応

 当事務所へ相談にいらっしゃったのは事故から半年後。確かに一見後遺症は見られない雰囲気でしたが、事故時の意識障害に加え、詳しく聴き取ると、物忘れがひどくなったり、視力が明らかに低下しているとのお話しがありました。また、文節にも少し不自然な点が見受けられたため、脳の専門医で再度検査を受けることをお勧めし、立証をサポートすることになりました。

高次脳機能障害は立証する必要があります

 自賠責から後遺障害の慰謝料を受け取るためには、まずそれが「後遺障害である」という認定を受けなければなりません。いくら「記憶力が悪くなった」と主張しても、それが事故が原因で引き起こされていることを医学的に結びつけなければ後遺障害とは認められません。そして、脳に障害を負うほどの損害を被ったとしても、後遺障害として認められなければ、それは「1円にもならない」ことになります。
 後遺症は「後遺障害」として認められてはじめて賠償金に反映され、補償の対象となります。ですので、特に高次脳機能障害は繊細に、緻密に立証していく必要があります。

被害者請求から認定へ

 後遺障害の立証については、受傷態様、症状との整合性を考えながら脳神経外科の先生の指示に従って検査を受けていきます。後遺障害立証に必要な検査はこちらからも依頼します。
 そして後遺障害診断書を作成して自賠責保険へ被害者請求していきます。今回は、高次脳で7級、骨折12級が併合されて6級の認定を受けました。

高次脳の認定について

「高次脳機能障害って認定されると不利益なことがあるんじゃないか?」と心配になられることがあります。ご家族の皆さまがそう心配なさるのはもっともです。

 しかし、この被害者様も一部上場企業へ職場復帰なされていらっしゃいます。また、高次脳の認定がついた頃には教員に復職していらっしゃった学校の先生もおられます。

 逆に考えると、日常生活に支障がない、一見そうとは見えないような症状であっても高次脳機能障害として認定され、正当な補償をうけることができる、ということです。

まとめ

 この被害者様は、今では一緒に日本酒を飲みに行く「飲み友達」のようになりましたが、嬉しいことに「高木さんに相談しなければどうなっていたんだろう、と考えるとゾッとする」とおっしゃってくださいます。

 高次脳は、出血や骨折とは違い、パッとみた時に分かりづらい。だからこそ、高次脳の疑いがないかどうか、事故から早期の段階でそれを検討する必要があります。
 先ほど、認定を受けた皆さまも社会復帰して一線でご活躍なさっている事例をご紹介致しましたが、そういった皆さまでも、やはり物忘れが多くなったり、日常生活が事故以前と変化しているは事実なのです。そして、そういう自分を受け入れ、一生付き合っていくのは他ならぬ自分自身です。事故によって発生したこういった日常生活の不便に対して、当然正当な補償があってしかるべきです。そして、その補償を受けるためには、医師だけではなく、お怪我を「交通事故後遺障害」という視点で捉えられる専門家のサポートが大切になります。

 ご家族や、あるいはご自身のことで思い当たることがあれば、どうぞお気軽にご相談なさってください。