後遺障害14級9号の該当要件

 今日は、後遺障害14級9号の該当要件について、当事務所のスタンスにおいて検討します。

後遺障害14級9号

頸部イメージ 交通事故を機転(原因)とした怪我や症状につき、完治を目指して適正に治療を行ったにもかかわらず、ある種の不具合が残存してしまった状態を「後遺症」と呼ぶことがあります。
 しかし、全ての後遺症が後遺障害と認定される訳ではなく、交通事故における後遺障害とは「医師が症状固定と判断した時点において残存している後遺症のうち、認定機関が相当と認めたもの」と言えます。
 認定機関はある一定の基準に基づいてその判断を行います。そして、その判断基準となるものが「後遺障害別等級表」です。この等級表には、「別表Ⅰ」と「別表Ⅱ」があり、その後遺症の態様に応じて1級から14級に分類されています。

 基準である以上、それぞれの細目はある程度明確になっているわけですが、14級9号は、次のとおり曖昧な概念となっており、しばしば認定時に問題となります。

14級9号

局部に神経症状を残すもの

 このシンプルな基準について、詳細に検討していきましょう。

言葉の定義から考える

 まずはいつものように、言葉の定義にあたっておきましょう。出典はともに『広辞苑 第六版 DVDROM版』です。

局部

①全体のうちのある一部分。局所。
②陰部に同じ。

神経症

心理的な要因と関連して起こる心身の機能障害。器質的病変はなく、人格の崩れもない。病感が強く、不安神経症・心気症・強迫神経症・離人症・抑鬱神経症・神経衰弱・解離性障害など種々の病型がある。ノイローゼ。

「神経症状」という言葉は掲載されていませんでした。神経症と医学的に言う「神経症状」は意味合いが違いますので、上記の「神経症」というのは、本稿での検討に相応しいものではありませんが、「器質的病変のない心身の機能障害」という点は参考になります。

 広辞苑の解説を読んでも、わかったような分からないような雰囲気ですが、それが14級9号の難しさでもある訳です。とりあえずの理解としては、「局部の神経症状」とは「身体のある一部分に見られる器質的病変の見当たらない心身の機能障害」となります。しかし、心身の機能障害と一口に言っても、片頭痛から食欲減退まで様々な症状があります。いちいちそれらについて、後遺障害における「神経症状」と呼べるかどうかについても検討する必要があるかというと、実は、それは必要ありません。

 何故なら、後遺障害で最も大切なことは、広辞苑の定義ではなく、医学的な通説の理解でもなく、調査事務所(後遺障害の認定機関)が認定してくれるかどうか、ということだからです。

 すなわち、実務的な視点から14級9号をかみ砕いて換言するなら「交通事故を原因として発生した症状のうち、調査事務所が『この神経症状と経過なら14級くらい認めてやらんとな』と判断した状態」である、と言えます。
 この定義を裏から考え、私は次のように14級9号を理解しています。

  • 14級9号の認定を受けるためには、「これは認めてやらんとな」と思わせることが大切である。
  • 発症の機転が交通事故であるということは、力強く訴えなければならない。
  • 症状だけではなく、経過(症状を改善させるために行った処置)も大切になってくる
  • 上記の事項を後遺障害診断書に力強く訴えてもらわなければならない。
  • そのためには、医師の理解と協力が必要である。

医学的な意味での「神経症状」とは?

 とはいえ、認定機関も「神経症状」という文言には一定の基準を持っていると考えられますし、それらを推察しておくことは実務的に重要です。

 しかし、「神経症状」で検索をしても、明確な答えにはなかなかたどり着けません。

「神経症状」とは神経系の障害に起因する症状である、と考えれば運動神経系、知覚神経系、自律神経系のどの系統の障害であるかによって症状は当然変わります。

 一つの分類モデルとして、医学事典である「メルクマニュアル」の神経疾患項目の分類表示が参考になります。専門的ですが、雰囲気を知ることができますのでご紹介しておきます。

神経疾患– メルクマニュアル18版 日本語版

後遺障害における神経症状

 では、話しを本題に戻しましょう。14級9号で調査事務所が認定する神経症状とはどのようなものなのでしょうか。

 ポイントは「交通事故を機転としている」という点です。交通事故で外傷を負わずに神経症状を訴える場合、その大多数はむち打ち損傷を原因としていると考えられます。

 むちうち損傷後の自覚症状としては、以下ような症状を訴えると言われています(急性期と慢性期は区別しない)。

  • 首の痛み
  • 頭痛
  • 腰痛
  • 痺れ感
  • めまい
  • 耳鳴り
  • 視覚障害
  • 吐き気
  • 不眠
  • 集中力低下
  • 倦怠感

 そもそも人間の活動は神経でコントロールされていますので、これらの訴えは全て広い意味で「神経症状」と呼んで差し支えないはずです。

 しかし、交通事故後に集中力が低下したと言って後遺障害の等級申請をして14級が認定される訳ではありません。それを許容すれば、後遺障害の申請件数は激増してしまうに違いありませんよね。

 実務上の通説としては、14級9号の認定を受けるためには、頸部か腰部に神経根症状が残っている必要があると言われています。これらは、申請を重ねた結果の蓄積であり、一定程度判断根拠とできる情報でしょう。

 しかし、当事務所では、14級9号の原点は「調査事務所が相当と認めたものである」と考えており、明確な判断根拠なく「非該当じゃないですか」と判断するのではなく、可能性が低い現実を伝えた上で、なお被害者が請求を望み、それに対して医学的根拠を補強していける余地があるのであれば、自律神経失調症状であっても申請すべきであるというのがスタンスです。

 この執務姿勢で大切なことは、「医学的根拠を補強していける余地があるかどうか」という判断です。医学的根拠を補強できなければ、被害者さんが本当に苦しんでいらっしゃったとしても、調査事務所は「これは認めてあげないとね」と考えてはくれません。全ては、医学的な立証と論理付けにかかってくると言っても過言ではないでしょう。

まとめ

 14級9号に該当する症状は、交通事故に関するご相談の中でも最も多いものです。しかし、今検討してきたように、認定の定義自体に曖昧さが残っており、認定されるかどうかは、医学的根拠をどのような方法で補強し、どうやって理論付けて調査事務所を納得させられるかにかかっています。

 つまり、後遺障害の立証とは職人的技術であって、正確性の担保されていないインターネットの文献を幾つか見ただけで方針が立てられるようなものではありません。
 もし、お怪我をなされた方がこの記事をお読み頂いたのであれば、以上のような現状をよくご理解頂き、本当に信頼できる専門家へご相談なさることをお勧めします。弁護士会の交通事故無料相談だから、「年間1000件の実績」だから信頼できるのではない、ということはよくよく知っておかれた方がよいでしょう。