懲戒解雇・諭旨解雇等の概念について

解雇の定義について 今日は、前回に引き続き、解雇の概念について検討します。
 前回のブログ「解雇の概念について」では、「解雇」そのものについて、その意味と法律上の定義について検討しました。
 今回は、解雇の種類として用いられる「懲戒解雇」「諭旨解雇」「整理解雇」等の意味について考えていきます。
 昨日、有名芸能人の成人したお子さんが逮捕されたことに関連し、勤務先のテレビ局から諭旨解雇された旨の報道がありました。また、今日は人気アイドルグループのメンバーが所属事務所から解雇されたとのニュースが大きく取り上げられています。
 時折報道されるこのようなニュースをより理解するためにも、意味を知ることは有益ですね。

「懲戒解雇」とは

 まずは、言葉の意味を確認しましょう。

懲戒解雇
企業の規律・秩序に違反したり利益を著しく損なう行為をしたりした労働者に対し、使用者が制裁として行う解雇。通常、退職金は支給されない。
-出典 広辞苑 第六版 DVD-ROM版

 これは、一般常識で通用している意味とほぼ同義ですね。
 では、法律上「懲戒解雇」は定義されているのでしょうか。実は、労働基準法でも、労働契約法でも「懲戒解雇」自体は定義されていません。ただし、労働契約法には「懲戒」について定めがあります。

(懲戒)
第十五条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 このように、懲戒処分については、「客観的な合理性」と「社会通念上の相当性」が必要とされており、それが認められない場合には、当該懲戒は無効となります。

 しかし、この「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」の要件は、いかにも抽象的でわかりづらく、明確な基準となり得ません。また、明確な基準がなければ恣意的な懲戒が行われる原因にもなってしまいます。
 そこで、懲戒については懲戒事由を就業規則に明記することが一般的になっています。

 懲戒解雇に関する判例等については、弁護士領域であるため詳しくは触れませんが、仕事上のたった一度の重大とまでは言えない失敗程度で懲戒されることはありません。

懲戒解雇と予告手当

 解雇というのは、原則として少なくとも30日前に事前に予告し、それをしていない場合には、30日以上分の平均賃金を支払わなければなりません。

 これに対して、懲戒解雇では、即時解雇と定めている場合が通常です。
 この規定によって即時解雇をする場合、あらかじめ労働基準監督署長に申請し、解雇予告除外認定を受けることが必要です。この認定を受けずに即時解雇する場合、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支給しなければなりません。

 つまり、社員が懲戒事由に該当するような不祥事を起こし、実際に懲戒解雇を行う場合でも、労働基準監督署の認定を受けなければ、普通解雇と同じように平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があるということです。

 このように、懲戒解雇は使用者の懲戒権の一種として存在している一方、法律によって濫用を防ぐための要件が定められており、個別の判例も数多く出ています。そして、懲戒解雇に該当すると思われる場合でも、労基署の認定を受けなければ解雇予告手当を払わなければならないということになっています。

懲戒解雇と退職金

「懲戒解雇になれば退職金が出ない」という論理がまことしやかに通っていますが、懲戒解雇になれば自動的に退職金が不支給になる訳ではなく、退職金支払規程にその旨の記載が必要となります。また、退職金は賃金の後払い的な性質もあるため、退職金の不支給については懲戒事由があるという理由だけで簡単に認められるものではないことにも注意が必要です。

 さらに、会社に損害を与えた場合であっても、退職金から一方的に相殺することはできず、相殺の合意が必要となります。

諭旨解雇

 諭旨解雇は、懲戒解雇よりも目にする頻度がすくなく、またわかりにくい概念です。広辞苑のDVD-ROM版にも載っていませんでしたので、「諭旨免職」という言葉を参考に掲載します。

諭旨免職
行為の非をさとし、本人のための取計らいとして、懲戒処分に代えて認める辞職。形式上は依頼退職。
-出典 広辞苑 第六版 DVD-ROM版

 免職というのは、公務員を「解雇」する時に使う言葉であり、この説明を通常の被用者にとっての「諭旨解雇」という意味に置き換えても差し支えはないでしょう。つまり、諭旨解雇とは退職勧告であり、実際上は「解雇」ではなく「退職」扱いになることが一般的と言われています。

 有名芸能人のお子さんが勤務先のテレビ局を諭旨退職になった理由は「就業規則に抵触する行為があったため」と説明されていますが、この詳細については勤務先の就業規則を確認してみなければ正確なことは分かりませんが、就業規則は部外者が閲覧することはできません。
 う~ん…さすがです。

まとめ

 今回、二日間にわたって「解雇」に関する概念、定義について検討しました。
 解雇については「整理解雇」という大きな論点がありますが、これには判例で確立されている要件があり、論点の大きな項目ですので、別の機会に検討することに致します。

 普段使っている言葉でも、その定義を理解しておくと、また違った観点から報道を考えることができるのではないでしょうか。ご参考になさってください。