「謄本」の正しい使い方を考える

今日は、専門用語を正しく使うことの重要性について、最近お客様が体験なさった事例から考えていきたいと思います。

  • 登記実務において「謄本」と言う言葉は、現実に則さない場合が多くなった。
  • お客様のことを考えるなら、正しい言葉を用いて説明すべきである。
  • 戸籍においても電子化が増えている現状を知るべきである。

「謄本」とは

 謄本については、このブログでも「謄本と抄本の概念について」で検討していますが、ここで再度広辞苑から言葉の意味を引用しておきます。

謄本:原本の内容を全部謄写して作った文書。
抄本:原本である書類の一部を抜粋したもの。
-出典 広辞苑第六版DVD-ROM版

 つまり、謄本にはそれに対応する原本が存在しており、謄本とは原本のコピーということができます。

 謄本という言葉が最も頻繁に使われる業界は、おそらく不動産業界でしょう。不動産の登記簿を謄写したものは一般に「不動産謄本」と言われ、(地方)法務局で取得することができました。

消えゆく「謄本」

政府の電子化が進んでいます。 ところが、今、「謄本」という種類の証明書はどんどんと数が減っています。
 それは、紙に記録していた情報を電子情報として保存するようになっており、電子媒体に保存したものは、もはや「原本」とは呼べないからです。
 たとえば、登記の電子化については、なんと昭和43年頃から準備研究がスタートしており、昭和47年度には予算がつけられています。そして、「電子情報処理組織による登記事務処理の円滑化のための措置等に関する法律」施行(昭和60年)などを経て、現在、登記簿については電子化が完了しています。
 電子化されて原本がない以上、電子媒体に保存されている情報を出力し、認証権者の認証印を押したものであっても、それは「謄本」ではなくなったのです。

  • 「原本」をコピーすれば「謄本」
  • 「電子情報」を出力しても「謄本」とは呼べない。
    (電子情報は「原本」じゃないから。)

 そこで、謄本と言う呼び方ではなく、別の呼び方が定められています。

不動産登記の場合

 不動産登記においては、概ね以下のような対応で「謄本」と「抄本」を区別することができます。

謄本
全部事項証明書
抄本
現在事項証明書・○区○番事項証明書

 全部事項証明書を請求すれば、抹消された事項も含め登記記録の全てが出力され、証明印が押されます。
 現在事項証明書は、現在効力を有している記録のみが出力されるため、抹消された担保などは表示されず、所有者についても、原則的には現在所有者のみが表示されます。

商業登記の場合

謄本
履歴事項全部証明書
抄本
履歴事項一部証明書・現在事項全部証明書・現在事項一部証明書

 最も情報量が豊富なものは履歴事項全部証明書です。ただし、履歴事項とは言っても、会社設立から全ての履歴が表示されるのではなく、過去の履歴で表示されるのは、請求日から遡って3年前の年の年初(1月1日)からの記録のみです。
 商業登記では、登記記録の必要部分だけを抜粋して請求することができ、それを「全部」か「一部」かで概念していますので、履歴事項であっても一部のみの証明を請求することも可能です。

戸籍の場合

謄本
戸籍全部事項証明書
抄本
戸籍個人事項証明書

「謄本」をめぐるトラブル

 さて、先日、お客様が不動産の賃貸借契約を結ぶについて、「【会社謄本】が必要」と言われたそうです。
 この場合、会社謄本とは、法人の履歴事項全部証明書に該当し、ちょうど2か月ほど前に取得した証明書が1通残っていたので、それを渡すようにお伝えしました。
 しかし、1週間後、お客様とお会いした際、その証明書が残ったままになっており、不思議に思って尋ねました。

  1. 不動産会社に郵送するため確認の連絡をしたところ「【会社謄本】が必要」と言われ、お客様は法務局へ出向いた。
  2. 法務局で謄本が必要だと言い、言われるままに請求したもの送ったところ、結局は不動産の全部事項証明書だった。
  3. 不動産会社から言われ、再度【会社謄本】を法務局へ取りに行った。
  4. そこで、私に送るように言われていたものと同じものが出てきて、はじめて意味に気づいた。

 このような経緯があったそうです。

トラブルの原因

 このトラブルは、私も含めたすべての関係者にもう少し配慮があれば防げたものと考えられます。

 まず、私としては、会社謄本が履歴事項全部証明書と同義である旨を伝えたのですが、完全な理解を得られていなかったからこのようなことが起こってしまったと言えます。
 ですので、より分かりやすく、ケースを想定した説明を行うよう今後留意していきます。

 不動産業者さんは、会社謄本と履歴事項全部証明書が同じ物であることを理解なさっておらず、今回のトラブルの直接の発端となってしまいました。年配の方はついつい「謄本」と言う言葉を使ってしまいがちですが、閉鎖謄本など、一部の例外を除いて一般的には使わない言葉ですので、留意すべきでしょう。

ビジネスパーソンは正しい呼称を使うべきです

 私は、特に法人事業者の方々には、必ずこの「謄本と証明書は同じ意味である」という旨をお話しをします。
 それは、今回のようなトラブルを防ぐためなのですが、それでもお客様に二度手間をおかけすることになってしまいました。
 しかし、これは、証明書を取り扱うビジネスパーソンが正しい言葉を用いていれば防ぐことができます。また、法務局の証明書係さん(大きな法務局では、今は公務員でなく、民間委託しているのが通常です)が機転をきかせて何に使うのか、などを聞きだし、必要に応じて「提出先へ確認なさっては?」といったアドバイスをすることできるでしょう。

まとめ

 事業主の皆様は、このような言葉の専門家ではなく、知らないで当然です。留意すべきは資格者やビジネスパーソンの側であることは言うまでもありません。
 私自身、銀行の手続で、必要書類に「全部事項証明書」と書かれているのに「不動産謄本」と言い換えて説明を受けたことがあります。

 今回お話しした事例は、実際に頻発している事例と想像できます。本稿をお読みくださった皆様におかれましては、皆様方の依頼人の負担を軽減するためにも、正しい呼称で書類を表現して頂きますよう、お願いする次第です。