医療分野の許認可申請についての雑感

 京都市が実施している「京都市病院群輪番制病院運営事業」において、手術室を別の目的で使用しながら補助金交付を受けていた病院が問題視されニュースになっています。

 京都新聞インターネットニュースによれば、補助金交付額は3年間で276万4千円。常勤麻酔医が退職したのは15年前ということですので、仮に10年間、制度趣旨に反する状態が継続していたと仮定したら、900万円近い補助金が無意味に病院に交付されていたことになります。

 保険適用となる医療費は算定基準に基づいて各医療機関が算定し、レセプトを提出して請求することで、保険適用分の7割の支払いを受けます。
 補助金交付申請も含め、これらの手続は、原則として性善説によって運営されていると思われますが、いくつかの突っ込みどころがあるのもまた事実です。

 今回は、実務家からみた「ここが変だよ医療関係許可申請制度」を論じます。

  • 複数にわたり入念なチェックがなされるポイントがある。
  • 重要と思われるポイントがスルーされることもある。
  • 時代に即した許認可制度に最適化していく姿勢が必要だと感じる。

医療分野の許可申請についての雑感

数多い医療分野の許認可申請

 医療分野の許認可申請は、非常に煩雑です。
 行政書士が関与する分野を中心にご紹介していきましょう。

医療法人の認可申請

 まず、医療法人を開設しようと思う場合には、都道府県知事の認可を受ける必要があります。
 医療法人の設立には、人・金・物の準備が必要になります。人は医師、お金は2ヶ月間の診療報酬に相当する現金預金、そして物は継続して活動できる場所です。
 添付書類も多く、診療報酬の振込通知書や残高証明、医師免許証の写しなどが必要になります。準備には最低でも6週間程度はかかるでしょう。

 京都府の場合、申込は年4回となっており、当該月下旬までに申し込んで、翌月に二回のヒアリングを受け、翌々月1日に申請となります。
 その後、医療審査会の審議を経て、下旬に認可書が交付されます。

 この医療法人の申請は、あくまで法人としての適格性が審査されるものというのが私の理解です。

 医療法人は認可を受けるだけでは成立せず、設立登記を行う必要があります。

市町村の診療所開設許可申請

 さて、医療法人を設立しても、すぐに開業できる訳ではありません。
 個人の場合、診療所の開設は届出で行うことができます。つまり、京都市の許可は必要ありません。
 一方、法人の場合、実際に開業し、診察と治療を行うためには、診療所の開設許可を受けなければなりません。
 京都市の場合は、京都市の医務衛生課が所管となっています。

 さらに有床診療所を開設する場合は、構造設備使用許可申請も併せて行う必要があります。
 医療法人におけるこの診療所開設許可申請は、より実際に近い審査が必要となるべきですが、論点となるのは都道府県の許可申請と同じように賃貸借契約です。

 申請書を見ても、その他に実際上必要と思われるのは「定員」くらいです。

診療所開設許可申請で感じること

 たしかに、建物を継続使用するため、その所有権者や契約関係を精査することは大切です。しかし、医療法人化する際、そこは都道府県の厳しい審査をクリアしている訳ですので、重ねてチェックする必要はないと思うのですが、書面の確認においては、全くのゼロからなさるので、私は「そこは府庁さんを信じてもいいのでは?」と感じます。

開設許可申請後の諸届

 診療所の開設許可がおりると、今度は開設届を提出しなければなりません。
 開設届には、医師免許証の写しを添付し、管理者である医師については原本提示を行う必要もあります。また、履歴書の添付が必要です。
 また、開設許可申請に診療時間を記載する欄はありませんが、開設届には、診療時間を記載する必要があります。

 一般的な診療所はレントゲンを備え付けるはずですので、その備付届出も必要です。
 なお、有床診療所の場合、開設許可申請時にはレントゲン室の平面図を添付する必要がありますので、線量測定は開設許可申請時には終了していることになるでしょう。

許可後の諸届で感じること

 こうして、許可申請から開設届を流れで見ると、むしろ許可申請時に医師免許証の添付等を求め、厳しく審査すべきではないかと感じます。
「どっちでも一緒でしょ」という考え方も成り立ち得ますが、それなら、そもそも一方の申請(届出)は無意味であるとも言える訳です。府庁の認可を受けているという担保がある訳ですから、個人開業と同じように事後の届出だけにしても良いと感じます。許可申請に何の意味があるのか、私にはよく分かりません。
 また、許可は更新制ではありません。たまに監査が入るという話しを聞きますが、おそらく定期的に行っているものではないと思います(私見)。
 これがたとえば「5年に一度は抜き打ちで監査が来る」という制度になっていれば、基準を逸脱した行為は著しく減少するのではないでしょうか。

 人的リソースが少なくそれができないというなら、それこそ行政書士会に外部委託すればいいのです。弁護士会でもいいでしょう。そういう制度維持のための制度があってこそ、バス会社のずさんな管理による不幸な事故もなくなっていくのではないでしょうか。

厚生局への保健医療機関指定申請

 さて、これでようやく診療開始できるようになりました。けれども、それだけでは保険を使って診療することができません。
 保険医の登録と保健医療機関の登録は別物ですので、保険診療を行うには、厚生局へ保健医療機関指定申請を行う必要があります。

 そして、この時に、施設基準にかかる届け出も同時に行います。
 この施設基準届出こそが、性善説によって運営されている制度であると私は感じます。
 施設基準とは、ごく簡単に申し上げると、健康保険法などを根拠法令として定められた保健医療機関の評価制度のようなもので、それを満たしていれば診療報酬が「加算」できる制度です。

施設基準の諸届で感じること

 建設業などで厳しい常勤制確認書類をお願いしている行政書士からみれば、この施設基準の届け出においては、当然、その基準を満たしていることを疎明する書面類の添付があってもおかしくないと感じます。
 しかし、資格を証する書面の添付が必要な届出は限られており、設備についても、実際の写真等を貼付する必要もありません。
 診療報酬は不正請求がよく問題になりますが、それは、結局のところ、システマチックなチェック体制が整備されていないからだと私は感じます。
 なお、保健医療機関指定申請の際にも賃貸契約書等建物の使用権限を証する書面の添付が求められ、わりとしっかりチェックされます。
 一方、京都市への開設届を出していることが事実上の前提条件となり、その受付印ある副本のコピーも提出する必要があります。
 医療法人の場合は、建物使用権限については、府庁がチェックし、その認可書写しを添付しているのに市役所がチェックし、さらに市役所への届出書の写しを添付しているのに厚生局がチェックするという流れになります。書類を持ち込む側からすれば、理解できることとは言え、不思議でなりません。

まとめ

 以上、医療法人設立から保健医療機関として診療できるまでの諸手続を概観しながら、医療分野の許認可申請で感じることを綴りました。

 医師免許証等で最低限のチェックはされているものの、定期的な検査や更新制度がないことが、不正請求や今回の「名ばかり救急」を生み出す一因になっているという視点は今後のためにも重要であると考えます。

 現状の基準に則って書類を作成する、審査することはもちろん大切です。ですが、許認可申請に携わる人間が、それぞれの立場から制度をより良くするために何が必要かを考えることはもっと大切なことだと私は思います。

 私も「自分に何ができるのか」と心を新たに、山のような書類に向き合っていきます。

※厚生局への申請は、行政書士の業務範囲ではありませんが、論点として必要であったため記載しています。