生活保護報道について考えてみる

 昨日は一部で生活保護関連のニュースが取り上げられていました。今日は、その報道も含めた生活保護に関する検討です。

<ポイント>
・何事も、常に根拠法令に自分であたってみることは大切だと思う。

1.事案の概要

 お笑い芸人と呼ばれる職種にある男性の母親が、長期間にわたって生活保護を受給していたことを週刊誌が掲載し、国会議員がこの事態を問題視。インターネット上で話題が拡散して男性が記者会見を開くに至りました。

2.事案の整理

 この「騒動」とも言える事案については、おおよそ次のような点をもって男性が批判されています。
・扶養義務者にあたっている男性がテレビへの露出も高く、高所得であることを話しのネタにしていたこと。
・生活保護受給者である母親を題材にした本を執筆し、出版部数から推測すると、印税が多額であったと思われること。

3.問題点

 しかし、この事案で問題となるのは、その受給が不正であったかどうかだけであって、不正でなければ男性は謝罪する必要はないはずです。
 ところが、昨日の会見では、「法的に問題なく不正受給ではなかったけれど、道義的にどうなのかと言われると認識が甘かった」と言う趣旨を述べ、謝罪しています。

4.生活保護法

 では、不正であったかどうかはどうして決まるのでしょうか。それは、生活保護法に違背しているかどうかで決まります。インターネットには様々な意見やコメントが飛び交っていますが、その中で生活保護法の条文に直に当たられた方はどのくらいいらっしゃるでしょう。
 常に条文に当たる、というのは法律に携わる仕事をしている人間に限らず大切なことだと私は思います。

(保護の補足性)
第4条  保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2  民法 (明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3  前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

 生活保護法第4条は、上記の通り、保護の方針を定めています。第2項に記載のある「扶養義務者」については、民法第877条第1項に、「直系血族及び兄弟姉妹は、互に扶養をする義務がある。」と定められています。

 この第4条第2項は、「直系血族と兄弟姉妹は互いを扶養する義務があって、行政による保護より優先して行われるものとする。」と定めています。
 もちろん、扶養できない場合は、その旨を役所に答えることになります。

 (申請による保護の開始及び変更)
第24条  保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。
2  前項の書面には、決定の理由を附さなければならない。
3  第一項の通知は、申請のあつた日から14日以内にしなければならない。但し、扶養義務者の資産状況の調査に日時を要する等特別な理由がある場合には、これを30日まで延ばすことができる。この場合には、同項の書面にその理由を明示しなければならない。
(第4項以下省略)

 第24条第3項では、扶養義務者の資産状況を調査できることも定められています。

5.事案への当てはめ

 ともすれば忘れられがちですが、日本国憲法は、国民に勤労の義務を課しています。生活保護は、自分で働くことができず、親族の援助もあおぐことができない場合に「一時的に」最低限度の生活を維持するための保護を与えるための制度なのです。
 こう考えると、親族が扶養できる状態になってからもなお制度を利用していたと言う点は、道義的ではなく法的な観点から非難に値するものと言わざるを得ません。

6.忘れてはいけない事件

 京都では、要件によって生活保護が受けられたにも関わらず、その説明なく生活保護を断られた息子が母を殺めると言う事件が起こり、行政の対応が問題視されたことがありました。本当に保護が必要な人を保護できないようでは生活保護制度は存在意義がなくなってしまいます。

 今回の事案については、その問題の所在を制度設計に求める考え方があります。それは一理あるでしょう。しかし、そこにはもっともっと大切な視点が欠落しています。制度を運用するのは人なのです。いくらよい制度であっても、人がその制度についていけなければ、同じようなことが繰り返されるでしょう。逆に、制度に多少の問題点があっても、運用する人間、利用する人間の質が高ければ、制度運営は上手くいくものなのです。

 最後に、この事案を取り上げた国会議員の方々も、ミクロの視点も持ち合わせて、我が身を削る努力をして頂きたいですね。