猪瀬都知事の金銭授受に関する検討

 先日、サッカー元日本代表選手であった前園氏が起こした暴行事件から、『前園氏の飲酒暴行事件から考える危機管理方法』で危機管理について考慮すべき要素について検討しました(以下、当該ブログ記事を便宜上「前稿」と呼びます)。
 今日、東京都の猪瀬都知事が、近時公職選挙法違反で取りざたされている医療法人「徳洲会」グループから5,000万円を受け取っていた事実が公になり、都知事の発言が報道で取り上げられています。

 今日は、前稿で検討した危機管理に必要な要素に照らし合わせ、猪瀬都知事の言動を検討します。

 なお、本件は進行中の出来事であり、その全容は明らかになってはおりません。本稿は猪瀬都知事の言動を批判する趣旨ではなく、あくまでリスクマネジメントから「当ブログの執筆者であればこうする」という方法論を導き出そうとするものです。

1.本件に関し「解決」とはなにか

 前稿では、問題解決に必要とされる要素として、以下の4点を上げました。

  • 1.解決とは何かを正確に知る。
  • 2.迅速に対応する。
  • 3.チャンネルをコントロールする。
  • 4.毅然と対応する。

借用書はあったのかな? まず、本件において解決とは何でしょうか。当ブログが考える本件の解決とは、猪瀬都知事の説明に有権者が納得する、ということでしょう。

 5,000万円が猪瀬都知事に渡ったその原因について、都知事は「個人として、無利息・無担保で借りていた」と説明されているようです。
 ちなみに、金銭の授受があったのが、報道によるとおよそ1年前。返却したのは強制捜査後の今年9月。この時期に返却しているのは、私的な言葉で申し上げると「胡散臭すぎる」感じがありますが、これは「借用書」というロジックがいとも簡単に答えを出してくれます。

 そう、金銭消費貸借には、返還時期を決めなければならない、ということはないのです。
 返還時期の定めは必要的な要件ではない。なので、返還時期を定めていなければ、民法では、債務者は返したい時に返せばそれで良いことになります(民法五九一条第1項)。

 つまり、猪瀬都知事の説明に矛盾点はなく、お金を返還したことも理に適っている。

 しかし、この流れは、猪瀬氏に取って極めて都合良く、あまりにも出来過ぎているため、猪瀬都知事の説明そのものの真偽を疑っている有権者が少なからずいることでしょう。
 都知事自身、朝日新聞の最初の取材に対しては、「私はまったく関知しない」「知らないと言ったら知らない」などと述べ、全面的に関与を否定しているとのことです(朝日新聞デジタル 11月22日(金)3時1分配信記事の引用)。

 おそらく報道機関も、都知事の説明が事実と合致するものなのかを検証するために取材を行うに違いありません。

 都知事はその検証に耐え、有権者を納得させることができるか。本件の解決はその一点に尽きると私は思います。

 都知事がおっしゃったことが全て事実であれば、私であれば「なんかまずそうな雰囲気になってるし、巻き込まれるのがいやで早く返そうと思って慌てて持参した」と正直に言うでしょう。
 が、これは全て事実であればこそ、言えることですね。

2.迅速に対応できているか。

 この要素については、都知事は初動対応を誤ったと言わざるを得ないでしょう。前日の取材で「私はまったく関知していない」と完全否定しているのに、翌日になって、自分名義で5,000万円借り受け、しかも自分で受領したと発言を修正した。
 これは、都知事には申し訳ありませんが、悪い見本の典型例です。
 5,000万円を自分で受領していたことを忘れていたというのであれば、それは、自ら知事に相応しい資質を持ち得ていないことを認めているのと同じです。

 このように考えると、初動対応がいかに重要かがよく分かります。
 しかし、議員や公職にある人たちは何故かこの初動対応でいつも失敗している。不思議ですね。

 初動対応に誤ると、その後に迅速に対応するとかえって怪しさ倍増という結果になりかねません。やはり、初動対応が大切と言えますね。

3.チャンネルをコントロールできるか。

 危機管理においては、情報の出所を管理することも大切です。前園氏の事件では、被害者側が一切おもてに出てこなかったことが早期解決に結びついた要因であると分析しました。

 本件においては、情報チャンネルをコントロールすることは難しいかも知れません。

 この場合、発想を逆転させ、チャンネルを絞ることを考えずに、自分で全てをさらけ出してしまうのが一番効果的な方法です。そうすれば早く収束させることもできる。また、本件の場合、都知事個人が無利息・無担保・無期限でお金を借りていたのであれば、やましいところはない訳ですから、借用書の原本を提示したり、詳細を自らしっかり説明するなど、受け身に回らず能動的に発信することで、自分のチャンネルへの信頼度を高めることはできるでしょう。

4.毅然と対応する。

 さぁ、これはいかがでしょう。インタビューの映像を見ましたが、感じ方は人それぞれでしょうか。
 初動対応で逆のことを言っているため、私の見たところでは、守勢になっている感は否めないように思いました。

まとめ

 問題が起こった時、事実がどうかということはもちろん重要ですが、それが他者からどう見えているか、ということも無視することのできない視点です。
 現段階では、猪瀬都知事に問われているのは法的な責任ではなく、都知事としての政治倫理的な責任であり、大変なことに、それは法的責任よりも重みを持ち得る可能性があります。
 とはいえ、政治家であれば、試練で資質が試されるのもまた歴史の示す事実。
 猪瀬都知事が自らを政治家と任じられるのであれば、その資質でもって有権者を納得させられることでしょう。

 それにしても、5,000万円を自分で借りて、預金はせずに妻の貸金庫で保管とは…。庶民には理解しがたい感覚でいらっしゃることは間違いなさそうですね。